妊娠等について悩まれている方のための相談援助事業連携マニュアル

最新号

我が国では、年々児童虐待件数が増加しており、社会問題になっている。
 児童虐待に対して、その対策を考えるうえで、その内容の詳細な検討は、不可欠である。最も不幸な事例は、虐待死であり、死亡に至らなくても、虐待による身体的障害や、ネグレクトなど、母子間の絆は乱れ、子供の心の傷は、計り知れない。
 死亡事例に関して、厚生労働省社会保障審議会児童部会の児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会から毎年報告される「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」を見ると、「望まない妊娠・出産」を理由に、実母が、一人で自宅分娩をして、その日のうちに子を殺める事例が、児童虐待死の44%と、最も多いことが、明らかとなった。
 平成22 年当時、この事実を知った日本産婦人科医会は、「望まない妊娠をした女性」に寄り添い、不幸な結果を防ぐことができるのは産婦人科医であると考え、直ちに、「妊娠等について悩まれている方のための相談援助事業」を開始し、その一環として、会員のために、「妊娠等について悩まれている方のための相談援助事業連携マニュアル」第一版を平成23 年10 月に作成した。
 その後、4年間、全国都道府県産婦人科医会では、この事業を具体化して取り組んできたが、最大の問題は、「望まない妊娠をした女性」は、産婦人科診療所や、病院の相談窓口を訪れることが極めて少ないことであった。
 一方、乳幼児虐待のために児童相談所を訪れる件数は、年々増加しており、平成24 年度では、66,807 件に達している。
 小児科医が、乳幼児の身体的外傷から、親の虐待を発見しても、実母に虐待をやめさせることは、極めて難しい現実がある。乳幼児虐待を防ぐためには、産婦人科医が、妊婦健診に来ている妊婦さんのメンタルヘルスケアに配慮することで、児童虐待の要因となる母親の産後うつ病や母子関係性障害を未然に防ぐことこそ、最も有効な方策であると思われる。
 そこで、平成26 年度からは、新たな医会の事業として、妊婦さんが母子健康手帳を交付される日、あるいは妊婦健診の時に、妊婦さんの心の状態、子供への関心、うつ病になる可能性の有無などについてチェックリストを用いたスクリーニングから、妊婦さんのメンタルヘルスケアの仕組みを構築することで、出産後も、児の虐待を防ぎ、健全に育児ができるように支援することとした。
 この妊婦さんの心のケアへの取組みを具体的に行うために、今回「妊娠等について悩まれている方のための相談援助事業連携マニュアル」─妊産婦のメンタルヘルスケア体制の構築をめざして─の改訂版を作成したので各産科医療機関で参考にしていただきたい。
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目次

はじめに
その1
その2
その3
終わりに