オンライン診療って、なにそれおいしいの?

    1. はじめに
       コロナ禍によりオンライン診療という言葉がクローズアップされているが、それ自体に用いられている技術はさして目新しいものではない。そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)といっても電子メールで紙文書を置き換えるなどはすでに30年近く前から普通に行われていたことであり、驚くような技術的変革があるわけでもない。実際のところ、すでに若者の間では、メールすら古いコミュニケーションツールである。例えば、50代以上の方の常識ではいわゆる“ちゃんとした場面”では、直筆で手紙を書くとか直接会いに行くとか普通であろうと思われるが、若い世代では正式な連絡はLINEでは失礼でメールすべきだというような考え方も珍しくない。さらには「電話をかけて直接お話するのは、他人の時間を奪う行為で失礼極まりない」というような考え方も広がりつつある。事程左様にDXの障壁の少なくとも一部は技術的問題とうよりはむしろ文化・意識の違いによるところが大きい。
       オンライン診療を使わないといけないかというご意見もよく耳にする。そうだと思う方には長篠の戦いにおける武田の騎馬隊と織田の鉄砲隊をお考えいただきたい。オンライン診療(ICT化、デジタル化)は戦国時代の鉄砲伝来のようなものである。武士として敬うべきはもちろん武田の騎馬武者であろうが、戦って勝つのは鉄砲隊である。鉄砲がいけないのではなく武士道を保っていかに鉄砲を戦術に取り入れるかということが肝要である。そもそもオンライン診療は目的ではなく手段である。従って、当然のことながら、安全で適切な診療を行う上で、よいことは積極的に取り入れ、問題ないこと(同等非劣性)は選択肢とし、よくないことはしなければよいだけの話である。もちろん、大人の世界のお話なので、患者さんのためと称してうまいことやろうかという輩が出てくることは間違いないが、それはオンライン診療に限った話でもなく、だからやらないでおこうという理屈も通じない。そうであれば、適切なオンライン診療を考察しそして適切に対応していくことは良心的な専門医集団としての本会の責務である。そのために会員のみなさまのお手伝いをすることがこのプロジェクトの目的である。

    2. このプロジェクトについて
       このプロジェクトは会員諸氏がオンライン診療を取り入れるガイドブック(手引き)を作成しようということではじまった。しかし、オンライン診療についての手引きはすでに公的なものが数多く作成され、用語も丁寧で記載も平易である。正直いって、それ以上正しく記載することも、わかりやすくすることも難しい。しかしながら、これらのガイドブックを読んでみても、「ではいったい私はどうしたらよいの」というのは正直なところよくわからないように感じる。昔ヤクルトにホーナーという助っ人外人がいて大活躍していたが、日本の野球を”これはベースボールではない”といって突然帰国してしまったことがあった。日本とアメリカでは同じ道具と同じルールで違うスポーツをしているのだそうである。世代間や英語と日本語のギャップと同じく、IT文化の中にいるヒトとそうではないヒトの間では、同じ言葉を使っても同じ概念を共有できるとは限らない。
       そこでこのプロジェクトでは、ITが使いたくて医師になったわけではない多くの医師が公的な指針やガイドブックを見たときに、「ああ、そういうことか」と理解しやすくなるようにという視点、いってみれば現存する公的手引きを医師が理解できるための翻訳ツールとして使えるようにというコンセプトで作成することとした。もちろん、法令や定義などについての理解は必要であるし、既存の手引きなどには、産婦人科診療における具体例などは少ないことから、日常診療でよくある場面から、安易なサービス提供としてではなく、患者さんに不利益を与えることなくできる診療場面なども考察し紹介していくこととする。
       省庁の指針などでは用語や法令などの解説から記載がはじまるが、本稿ではまず、現在多くの医家が診療している場面を想定して、これをオンラインでやったらどうなるかということから話をすすめていく。なお、産婦人科領域においては、月経困難症における子宮内膜症のように、当初は器質的病変を指摘できなくても、その後顕在化しうるような疾患が少なくない。またLOC/LEP製剤を使用するような場合には症状がマスクされるため器質的病変の出現の認知が遅れるようなリスクもある。従って、新患(初診)からのオンライン診療は適切とは考えにくく、また一定期間ごとに婦人科的な診察をおこなうことが患者さんの不利益を防ぐためには必要であるという立場で記載していることをご理解いただきたい。
       作成にあたった情報技術(IT)委員会も、別にそのみちのプロ集団というわけではない。そのため、オンライン診療のシステムベンダーに多大なご協力をいただいてこの原稿を作成している。この場を借りて深謝申し上げる。もちろんこのゼミナールの記載はあくまでも特定のベンダーを推薦するものではなく、またご協力いただいたベンダーにもそれを理解したうえで、無償でご協力いただいていることを申し添える。また、情報技術委員会だけではなく保険診療や標準診療として適切かの観点についても、本会の各部会、委員会の専門家が問題ないことをチェックしたうえで公開していくが、なにせ数か月で諸種改正される現在進行形のテーマであるため、すでに時代に合わないことになっている可能性があることもご理解いただくようお願いしたい。

    3. 最初のシナリオ
       症例:機能性月経困難症の一例。初診時に器質的疾患を除外、その後数か月を経て、3シートずつ処方のための来院時に、問診、血圧測定、体重測定を行っている。1年に一回、超音波断層法、婦人科的診察を行い、子宮内膜症などの器質的疾患の顕在化を否定している。
       普通にみなさんが日常の外来で診療している症例と思われる。これを対面診療した場合と、一部にオンライン診療を取り入れた場合を以下にモデル化してみる。もちろんオンライン診療時にもOC/LEPガイドライン(CQ03-04)に沿い、身長体重(BMI)、血圧の確認を行い、血栓症や器質的疾患の出現を常に念頭に置いて診療し、不正出血時には子宮頸部細胞診異常や子宮頚管炎などの除外も考慮し、適宜対面診療に案内することを大前提としている。

      この症例における受診スケジュールのスキーム

    4. このようなスケジュールであれば、少なくとも6か月に一度は対面診療が組み合わさリ、ガイドラインに沿った深部静脈血栓症リスクや器質的病変の出現に対するケアが可能であるとともに、患者来院回数の削減も可能である。
      この場合の、対面受診時、オンライン診療時(この例だと4月、10月の年2回)の診療報酬に基づき、診療1回あたりの収益を比較してみると以下のようになる(2021年1月時点)。


       オンライン診療時には、「療養の給付と直接関係ないサービス等の費用」として、「システム利用料」や「通話料等」といった費用を患者に請求することが可能である。医療機関ごとに設定可能だが、500〜1500円程度が相場である。患者への請求にあたっては、あらかじめ同意を取得しておく必要がある。
      オンライン診療システムを利用する場合、患者の自己負担分の決済にはシステムベンダーに対し手数料(3〜5%程度)が発生する。上記表の場合には、(一診療あたり)50〜70円程度が、医療機関の収益からシステムベンダーに支払われることになる。さらにシステムの月額利用料や減価償却費を要する場合があるが、ベンダーにより条件が異なるため、利用前に確認しておく必要がある。

       

    5. この診療を行うのに必要なものはなにか。
       オンライン診療時には、診察室で、患者さんが椅子に掛けているかわりに、パソコンの画面上に患者さんのお顔がうつり、画面上で会話をして、問診や血圧体重の情報などを得ることになる。素朴な疑問として、それだったら、パソコンもってあるけば診察室でなくてもゴルフ場でできるのではないかという気もするが、当然ながらそういうわけにはいかない。また、対面とは違って、そこにいる人が患者さんかどうか本人確認、自分が医師であることをきちんと示したりする必要もある。その根拠が関係法規などには記載してあり、そのために法令などについても一定の理解が必要である。また、その中には説明や同意を得るべき項目も記載されており、これを遵守することが必要である。
       ハードとして必要なものは、患者さんとお話しするための機器(カメラ、マイク、スピーカー付きパソコン。パソコン以外の端末でも良い場合があるが、満たすべき条件をそれぞれ確認する必要がある。)である。もちろん、パソコンはインターネットにつながっており、ビデオ会話ができることが必要であるが、最近のパソコンであれば特別なソフトをインストールしたりする必要はないことが多い。
      利用方法は、最近オンライン会議などを経験された先生も多いと考えるが、やっていることはそれと全く変わらない。オンライン会議の時には、サービスにアクセスして、ミーティングIDとか、パスワードとかそんな情報を入力してログインするわけだが、診療についても、患者さんや医師、受付その他処理をするスタッフがそれぞれ個別のIDやパスワードを使って利用する。
       機能としては、オンライン診療を行う時間を医療機関が指定したり、患者が予約をとったり変更したりする仕組みも必要である。また受診時の保険証確認、本人確認、そして診療終了後の請求や、実際にお支払いをしていただく方法も必要である。
       実際には必要なシステムについては、一体化したパッケージとして医療(オンライン診療)に特化したものがクラウドサービスとして提供されており、「オンライン診療システム」や「オンライン診療専用サービス」と称されている。ご存知ないかたもおられるかもしれないが、パソコンもプラモデルと同じように部品を買ってきて、組み立てて、それに基本ソフト(パソコンを動かすソフト;ウィンドウズやMacOSなど)と目的に応じた個々のソフト(マイクロソフトオフィスなど)を自分で導入すれば、出来上がりパソコンを買ってこなくてもよい。しかし知識と技術と手間がいるので、多くのひとにとっては店頭で買ってきて使うほうがリーズナブルである。オンライン診療のシステムもこれと同じで、個々の機能に相当するアプリケーションや機器をうまく組み合わせて使用して診療することは可能だが、多くの場合一体化したパッケージを使った方が簡単という話である。価格も一定の市場ができた今、概ねそんなものであろうという程度にはなっている。
       一方、前項で提示したように、オンライン診療時の診療報酬については見慣れぬものが多く、オンライン診療を行う個々の医師がこれらの診療報酬や請求の根拠や要件などについても理解する必要がある。こちらについても、さまざまな資料をあたって自習することも不可能ではないが、システムベンダーの一部が行っている制度や保険請求についての情報提供などのサポートを活用するという方法もある。
    6. おわりに
      初回はこの手引き作成にあたってのコンセプトと、ふつうに日常診療しているような症例をオンライン診療する場面を描写し、とりあえずそのために必要そうなコト・モノを列挙してみた。次回からはこれらの必要な事柄が、公的に紹介している手引きなどにどのように記載されているかなどを概説していく。

    今後主にみていく手引き、指針など
    厚生労働省 オンライン診療の適切な実施に関する指針
    https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf
    総務省 遠隔医療モデル参考書 -オンライン診療版-
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000688635.pdf