第十二回:伝染性紅斑の流行と妊婦健診
医療法人社団 出産相扶会松田母子クリニック 松田 秀雄
はじめに
伝染性紅斑は、Parvovirus B19によって引き起こされる感染症で、軽度の風邪症状・発疹・関節痛や、頬部の紅斑・網目状の皮疹などであらわれる。潜伏期間は約4~14日である。飛沫感染を主とし、時に血液を介した伝播も報告されている。冬から春にかけて流行する傾向があり、保育園や小学校などでの集団感染が多い。
成人女性の約60~70%が抗体保有者とされ、妊娠可能年齢層では約30%が感受性を有している。妊娠中の母体感染は、胎盤を通じて胎児に垂直感染し、胎児水腫、胎児死亡を起こし得る。
問 保育園等における伝染性紅斑(リンゴ病/パルボウイルス感染症)流行に際し、妊婦からの問い合わせがあったら?
答 一般的な感染防御対策(手洗い・うがい等)を推奨する。母体が無症状であれば、まずは胎児超音波(必要なら母体Parvovirus B19 IgM抗体検査)をすすめる。症状がない場合の妊婦における胎児感染予測には、抗体検査よりも超音波検査で胎児水腫の有無を確認することの方が感度特異度とも高いとされている。母体に症状があった場合、院内感染を防ぐ意味から、換気が良好で他の妊婦と距離を取れるような診察場所、待合場所となるように配慮すべきである。
問 母体に症状があった場合、母体への影響は?
答 多くの場合、成人は軽度の風邪症状・発疹・関節痛を訴える程度であるが、頬部の紅斑や、網目状の皮疹を見ることがある。妊婦では時に重篤化することが知られており、診断に苦慮することがある。強い貧血や血小板減少を呈する場合があり、Parvovirus B19感染を契機に遺伝性球状赤血球症が発覚することもあることを念頭に診察する。
抗体検査でParvovirus B19 IgMは保険収載されており(ただし妊婦であることの記載が必要)利用可能である。母体血中PB19 DNA PCR検査の方が鋭敏であるとの報告があるが、本邦では自費検査になる。顕性感染の場合はまず母体の重症度を調べ、次に胎児を検討することになる。一般的に母体が発症してから胎児感染が顕性化するまで長ければ8週間程度に及ぶタイムラグが報告されているので、母体に発疹があった時に胎児に異常がなくても定期的に診察する必要がある。
問 胎児への影響は?
答 感染した妊婦の約40%で胎児感染が成立するが、胎児水腫を合併するのは感染妊婦の約2~10%とされる。胎児水腫発症を見た場合、数日から数週間で胎児死亡となるか、あるいは自然に軽快する。母体感染確認後は定期的超音波検査による胎児貧血の有無、胎児心不全の有無、胎児水腫発症について検索する。
問 胎児水腫の診断は?
答 母体感染の診断には、IgMおよびIgG抗体検査が有効である。IgM陽性は急性期感染を示し、IgG単独陽性は既感染・免疫保有状態を示す。PCRによるウイルスDNA検出も可能である。胎児感染の評価には、羊水中のParvovirusB19 DNA検出、および超音波による貧血徴候の観察(中大脳動脈血流速度測定など)が有用である。前述のように保険適用の範囲に注意が必要である。
問 症候性胎児への治療は?
答 母体感染から胎児水腫発症までの中央値は3週間である。胎児水腫の50%は母体感染から2~5週間で発症しており、胎児水腫の93%は母体感染から8週間以内に確認されていた。胎児水腫539例の34%に自然寛解が認められており、うち66%は5週間以内に、20%が5~8週間で自然寛解した。自然寛解が期待できない症例では、胎児治療が選択され得る。胎児に感染が疑われる、または貧血・水腫を認める場合には、胎児輸血(intrauterine transfusion)が実施されることがある。特に中大脳動脈の血流速度が1.5 MoM以上となった場合、胎児貧血の指標とされるため、定期的な超音波検査が重要である。感染初期の診断がなされ、適切なモニタリングが行われた場合、胎児水腫は可逆的となり得る例も報告されている。MoM値の計算についてはhttps://www.perinatology.com/calculators/MCA.htmが簡便である。胎児輸血では穿刺針の工夫が必要である。現在日本では25G子宮穿刺針(ハナコメディカル)が利用可能である。
問 胎児の予後は?
答 Parvovirus B19感染の催奇形性については否定されており、胎児感染後の生存例では、その後の新生児期の問題点は指摘されていない。長期成長発達については、非感染妊婦から出生した症例と差がないという報告が多く見られる一方で、精神運動発達に遅延が見られた児が32%(5/24)とする報告も見られる。
問 妊婦への保健指導は?
答 正常免疫能を有する伝染性紅斑患者では、紅斑、関節痛などを示した後であればウイルスを排出しない。したがって、胎児水腫精査などの受診時での院内二次感染の可能性は低い。小児の場合も登園・登校は可能である(症状出現後は他児に感染させる可能性は低い)。
問 予防と感染対策は?
答 現時点でParvovirus B19に対するワクチンは存在しないため、予防は曝露回避が基本となる。特に妊婦が感染児との濃厚接触を避けることが重要である。感受性のある妊婦に対しては感染流行時の注意喚起が望まれる。
厚生労働省ホームページ感染症情報「伝染性紅斑とは」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/fifth_disease.htmlの内容は、患者に伝える情報として有用であり利用しやすい。
典型的な紅斑症状が出現する前の軽度の風邪症状段階において感染が拡大するので、院内ではマスク着用など、いわゆる「咳エチケット」の推奨が望ましい。
おわりに
伝染性紅斑は、一般的には軽症で自然軽快する疾患であるが、妊娠中の感染に限っては深刻な胎児合併症を引き起こし得る。産婦人科医は、流行状況の把握と適切な感染管理の知識を有し、早期診断と胎児管理にあたることが求められる。今後、母児の安全を守るためには、個々の症例における対応の知見の集積と、感染予防のための社会的啓発の両輪がうまく噛み合うことが不可欠である。
図1 伝染性紅斑による非免疫性胎児水腫:腹水

図2 伝染性紅斑による非免疫性胎児水腫:心拡大、心嚢液、皮下浮腫

図3 中大脳動脈最大血流速度の増大:2.03MoM

※図1~3は妊娠20週4日の自験例である。
胎児貧血による胎児腔水症は、サイトメガロウイルスの胎児水腫とは異なり肝脾腫を伴わないことが特徴である。胎児中大脳動脈の最大血流速度が著しく亢進していることから、胎児貧血が進んでいることが分かる。