3.論文の評価. Impact factorとCitation Index
IFとは、米国の情報学者Eugen Garfieldが1955年に提唱した概念で、トムソン・ロイター社(旧: Institute for Scientific Information (ISI))の引用文献データベースWeb of Scienceに収録されるデータを元に、その雑誌の論文が1年間に何回引用されたかという指標である。有名な雑誌に掲載される論文ほど、被引用回数が多いため、日本に限らず、世界中で「雑誌の格」、「研究者や研究機関の評価」に使用されているが、あくまでWeb of Scienceに収録された特定のジャーナルの「平均的な論文」の被引用回数にすぎない。インパクトファクターはWeb of Scienceに収録される雑誌の3年間のデータを元に算出するため、新しく採録された雑誌には最初の3年間はIFがつかない。
何か論文を書いて投稿するときに同じ分野ならばIFの高い雑誌ほどより多くの研究者に読んでもらえるという利点があるが、異なった分野間でIF点数を比較しても意味がない。 研究者人口の多い消化器科や循環器科、神経科学の論文のIFが高いからといって, 我々産婦人科や生殖科学の雑誌よりも偉いというわけではなく、陸上競技の100m走と水泳の100m自由形のタイムを競うようなものである。昔、初対面のアジアの某大国の科学者から、” How many impact factors do you have?”と聞かれてびっくりしたことがあるが、かの国では点数によって学者の扱いが違うそうである。(高めに言っておけば余禄があったかもしれぬ) 多くの国々においては、昇進採用や競争的研究資金獲得のために科学者個人や、論文の影響度を評価するには むしろcitation index CIが有用と考えられている。CIとは、個々の文献間の引用情報に関する索引であり、ある文献が他の論文により一定期間にどれくらい引用されたかを示すものである。同時に論文の訂正やコメント、反論等も検索が可能となり、その論文がどれくらい科学の世界に影響力を持つかを示すことが可能となる。現在、トムソン・ロイターはCIからノーベル賞受賞者の予測を行っており、かなり有力な指標となっている。
しかし、近年米国でも雑誌内における引用の分布の偏りや、分野の特性、原著論文とレビューの混在、編集者の恣意性などから、IF偏重は問題視され、2012年12月にサンフランシスコで開催された米細胞生物学会では「インパクトファクターのみに基づいて論文の優劣を決めて研究者の評価に利用することをやめるべきである」というサンフランシスコ宣言The San Francisco Declaration on Research Assessment:DORA)が採択された。DORAでは、雑誌ベースのデータを個別の資金助成や職の任命昇進に用いるには慎重であるべきとしている。しかし、個別の論文を評価すべき新たな指標がない現時点では、DORAに対する各学会や出版社からの反対意見も多く、当面はIFとCIを指標にせざるをえないのが現実である。最後に、当然のことながら科学の世界のLinga franca(公用語)は英語なので英文で論文を書かない限りIFはつかない。本会の会員には 研修医や大学院生など、できるだけ若いときから臨床でも基礎でも新しい知見やアイデアは英文でまとめるよう心掛けて頂きたい。著者本人の昇進や専門医の資格取得などといった目に見えるご利益以上に、世界中の医療者に重要な情報を提供することができるからである。