10.スタートアップ10(低酸素による遷延一過性徐脈)
CTGマイスター(ベーシックコース)
スタートアップ10(低酸素による遷延一過性徐脈)
もっとも有害な一過性徐脈は、ここで紹介する低酸素による遷延一過性徐脈である。
1.判読して下さい
1) 症例提示(図1)
39歳初産婦。妊娠37週、妊娠高血圧症候群のためオキシトシン点滴による分娩誘発を開始した。点滴開始後1時間30分が経過し、子宮口2cm開大時のCTGである。20分前から、4分おきに軽度だが規則的な子宮収縮が出現してきた。
妊娠高血圧症候群を保存的に改善させることは難しく、根本的な治療は、妊娠の中断になる。軽症であっても妊娠10ヶ月には分娩誘発が勧められる。また、妊娠高血圧症候群では胎盤機能不全(胎盤循環不全)を伴うことが多く、胎児の予備能力が低いことがある。
本症例はこのまま、分娩を乗切れるであろうか。
2) 判読と対応(図2)
軽い子宮収縮にも関わらず、高度な低酸素状態を想起させる波形が出現している。心拍数基線150 bpmで正常脈、基線細変動は10 bpmで中等度だが、緩やかに1分程度の経過で、心拍数が70bpmまで減少し、最下点が、子宮収縮の最強点より遅れて出現している。波形は遅発一過性徐脈だが、心拍数低下が2分を超え10分未満のため、遷延一過性徐脈と判読できる。やっと分娩が始まりかけた段階で、看過できない状態である。
おそらく妊娠高血圧症候群による胎盤機能不全が要因と推察される。胎盤機能不全は明確に定義されたものではなく、概念的な疾患であるが、胎盤の酸素供給システムが脆弱で、子宮収縮などのストレスに弱いと考えられている。胎児の予備能力がないと言い換えることもできる。
担当助産師は直ちに体位変換を行い、その間収縮計がずれて記録されており、この後、この症例はオキシトシンを増量できず、緊急帝王切開になった。
さて、お気づきだろうか。遷延一過性は必ずしも単一の原因で出現するものではないことを。
2.遅発一過性徐脈に類似した遷延一過性徐脈
1) 症例提示(図3)
日本医療機能評価機構より公表されている脳性麻痺事例のCTGを示す。
頻回収縮気味で、一過性徐脈が繰り返し出現している。脳性麻痺事例のCTGだが、この時点で傷害が発生しているわけではない。さて、この状況にいかに対応すべきであろう。
2) 判読(図4)
心拍数は緩やかに減少し、uniformで、比較的左右対称で繰り返し出現している。言うまでもなく遅発一過性徐脈である。繰返す遅発一過性徐脈の心拍数低下時間が徐々に延長し、遷延一過性徐脈に至っている。低酸素状態による変化で圧変化によるものと異なり、極めて深刻である。
さて、このあとどうなったかCTGの続きをご覧頂き、対応を解説する。
3) 低酸素による遷延一過性徐脈は短時間で破綻を招く(図5)
低酸素による遷延一過性徐脈の出現後は比較的短時間で、児の自律神経系は破綻する。遅発一過性徐脈が出現している間は、低酸素状態に対し、胎児のセンサー(化学受容器、圧受容器)や自律神経機能が健全に働いているということも出来る。
後半は70bpm前後の心拍数基線が10分間以上持続し、徐脈と判読できる。徐脈部分では基線細変動が消失しており、自律神経系のみならす心筋機能も抑制されている。
したがって、遅発一過性徐脈が繰り返し出現し改善がない場合は、遷延一過性徐脈の出現を待つことなく医療介入しなければならない。行うべきは、急速遂娩である。
3.遷延一過性徐脈をみたら?(図6)
遷延一過性徐脈を認めた場合、図6に留意し、適確な対応に心がけていただきたい。