10.妊娠中の飲酒について

妊娠中は少量であっても飲酒は避けるように指導しましょう。

産婦人科診療ガイドライン産科編2017で新規のCQとして妊娠中の飲酒が取り上げられた。それは、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)の症例がこれまで考えられていたよりも多く存在すること、海外での多くのコホート研究により、飲酒が胎児の形態異常や脳萎縮、胎児発育不全、妊婦のうつ症状の悪化と関連することが示されたこと、また、飲酒が量や時期に関係なく胎児に不可逆的な悪影響を及ぼす可能性が示されたことにより、妊娠中の飲酒についての知識を再確認する必要があると判断されたためである。
妊婦健診でまず重要なことは、妊娠初期に妊娠前の飲酒習慣について確認することである(推奨度B)。確認方法は問診で、「飲酒なし」、「機会飲酒のみ」、「(ほぼ)毎日」の3群に分けて確認するのが現実的である。その上で、「(ほぼ)毎日」の場合にはその飲酒量や頻度の確認を行い、飲酒習慣のある場合にはなるべく早い時期にFASDの危険性などについて説明し、禁酒を指導することが必要になる。飲酒量については1日エタノール換算で約15mL=ビール350mL缶1本程度(最小飲酒単位)であれば児に影響はないと以前は説明されることがあったが、現在は、少量であってもFASDの発症リスクがあるとされる。この最小飲酒単位の4倍(1日エタノール換算で60mL)を超えた場合に過量飲酒と定義され、FASDのリスクはさらに高まる。禁酒の指導後にも飲酒を続ける妊婦にはアルコール依存症の可能性があり、専門科への紹介も考慮する必要がある。
産後においても禁酒が推奨される。飲酒はプロラクチン分泌を抑制し、乳汁の分泌量や授乳期間などのパフォーマンスを低下させる。また、母体血中のアルコールは母乳に移行する。乳汁中アルコール濃度は飲酒後2時間が高いとされ、飲酒後2時間以上あけて授乳することが推奨されている。母乳のメリットが人工乳に比し大きいため、海外の勧告では飲酒したからといって授乳を忌避する必要はないとされている。
このように、妊婦の飲酒について妊娠初期に情報を収集し、飲酒する妊婦に対しては正確な情報を提供と的確な指導が重要である。