16.反復着床不全

1. 反復着床不全とは

体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるといわれている。よって、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「反復着床不全:repeated implantation failure:RIF」という1)。

2. 着床不全の原因

① 受精卵側の問題
→ 着床前遺伝子診断(現在は学会の検査許可待ちとなっている)
② 子宮内の環境の問題
→ 子宮鏡検査(粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、中隔子宮、慢性子宮 内膜炎など)
③ 受精卵を受け入れる免疫寛容の異常
→ 免疫検査(採血で、Th1/Th2 細胞、ビタミンD)

3. 具体的な治療法

① 慢性子宮内膜炎
RIFの約30%に慢性子宮内膜炎を認めると言われている2)。子宮鏡検査で慢性子宮内膜炎を疑った場合、子宮内膜生検を行い、免疫染色でCD138陽性の形質細胞を確認し診断する。その原因は、大腸菌、エンテロコッカス、連鎖球菌、マイコプラズマ、クラミジアなど様々で、検出されないこともある。そのため子宮鏡検査の子宮内腔所見が重要となる。最も典型的な所見は「strawberry aspect」といってイチゴの外表用に発赤した子宮内膜といくつもの白斑を認める(図1)2)。このような所見を認めた場合、広域の抗菌薬の投与が必要で、具体的には第1選択薬としてドキシサイクリン(ビブラマイシン®︎,100mg)分2×14日間を使用し、改善しなければシプロフロキサシン(シプロキサン®︎,200mg)+メトロニダゾール(フラジール®︎,250mg)分2×14日間を投与して治療することが推奨されている2)。


図1 慢性子宮内膜炎の子宮内腔所見

② Th1/Th2
受精卵に対する子宮の受容性は、T細胞を介した免疫応答が担っている。T細胞は産生するサイトカインにより、IL2,IFN-γ,TNF-αなどを産生し細胞性免疫を誘導するTh1細胞と、IL4,IL13などを産生して液性免疫を誘導するTh2細胞に分類され、これらを制御性T細胞が制御している。正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持される4)。体外受精後に得られた良好胚を子宮内に複数回移植しても妊娠しないRIFの患者は、明確な治療法もなく、胚移植後の妊娠率は若年女性でも10%未満である5)6)。
半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要である。実際にRIF患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較すると
RIF患者が有意に高い4)6)。NakagawaらはTh1/Th2比が高いRIFの患者に免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ®︎)を併用し胚移植を施行した妊娠率が63.6%と非常に高いことを報告した6)。タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1/Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避けることで、着床に至ると予想される。

表1 反復着床不全症例に対するタクロリムスを併用したIVFによる妊娠率(文献6より)

ET:胚移植

③ ビタミンD
ビタミンDの欠乏した不妊患者がRIFと関係している報告があり、ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、一方、免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制することが報告されており、妊娠に有利な免疫状態を誘導することが知られている7)。貯蔵型ビタミンDである25OHビタミンDが30ng/mL未満の患者にはサプリメントを服用させることも重要である。
④ 子宮内膜スクラッチ
着床不全の検査で異常を認めない場合、治療法として子宮内膜スクラッチがある。着床における炎症反応を誘起し、子宮内膜脱落膜化を促進し、子宮内膜の創傷治癒過程において幹細胞を活性化する可能性がある。
複数回胚移植を行った症例にしか効果がないとされているが、スクラッチを行なって着床率が低下する報告はほとんどない8)。スクラッチを施行した場合の妊娠率は施行しない場合と比べて2.61倍(オッズ比)とされている8)。
原則、胚移植の前周期の黄体期に行う。ただし、採卵時に行うことは避けたほうがいい。スクラッチの効果は約4ヶ月持続するとされている。
⑤ その他の原因不明の着床不全に対するサポート
・アシステッド・ハッチング(胚培養後に透明帯をレーザーで切開する)
・エンブリオ・グルー(着床に重要なヒアルロン酸を多く含有する培養液で培養後胚移植し、着床をサポートする方法)
などがある。

まとめ
生殖補助医療(ART)において、良好胚を複数回移植しても妊娠しない反復着床不全は、精神的にも金銭的にも負担が大きい。胚移植後妊娠できなかったときにその原因を患者と話し合い検討することは重要である。着床不全には様々な原因があるため、個々の症例に応じて適切な検査および治療を選択することが望まれる。

参考文献
1) Coughlan C, et al: RBM online 2014: 28: 14-38
2) Johnston-MacAnanny EB, Hartnett J, England’s LL, et al:Chronic endometriosis is a frequent finding in women with recurrent implantation failure after in vitro fertilization. Fertil Steril 2010:93:437-41
3) Bouet PE, El Hachem H, Monceau E, et al: Chronic endometriosis in women with recurrent pregnancy loss and recurrent implantation failure: prevalence and role of office hysteroscopy and immunohistochemistry in diagnosis. Fertil Steril 2016: 105:106-10
4) Ng SC, Gilman-Sachs A, Thayer P, et al: Expression of intracellular Th1 and Th2 cytokines in women with recurrent spontaneous abortion, implantation failures after IVF/ET or normal pregnancy. Am J Reprod Immunol 2002: 48: 77-86
5) Koot YE, Taklenburg G, Salker MS, et al: Molecular aspects of implantation failure. Biochim Biophys Acta.2012: 1822: 1943-50
6) Nakagawa K, Kwan-Kim J, Ota K, et al: Immunosuppression with Tacrolims Improved Reproducrtive Outcome of Women with Repeated Implantaion Failure and Elevated Peripheral Blood Th1/Th2 Cell Ratios. Am J Reprod Immunol 2015: 7: 353-61.
7) Ikemoto Y, Kuroda K, Nakagawa K, et al: Vitamin D regulates maternal T-helper cytokine production in infertile women. Nutrients 2018: 10: 902.
8) Astride CO, Lensen SF, Gibreel A, et al: Endometrial injury in women undergoing assisted reproductive techniques. Cochrane Database of Syst Rev 2015: CD009517.