17.ステップアップ5(有害な一過性徐脈の出現3)
低酸素状態は様々である。母体背景や合併症、あるいは胎盤・臍帯因子により、様々な強度や経過をとる。
今回は、母体にリスクがあり、慢性の経過をとった症例を取り上げる。
1. 低酸素状態、ハイリスクな母体
1) 症例3(図1)
42歳、初産婦。体外受精にて妊娠成立。妊娠初期より慢性高血圧を合併し降圧薬を使用している。妊娠41週、陣痛発来後1時間、入院時(分娩第1期)のCTGである。内診所見は子宮口2cm開大で、児頭は固定していない。
判読してください。
2) 起伏の少ないCTG(図2)
心拍数基線は165bpmで頻脈、基線細変動は5-6bpmで、軽度の遅発あるいは遷延一過性徐脈(↓)が繰返し出現している。
症例1、2(前回、前々回)に比較し、心拍数基線の変動(起伏)が少なく、静かなCTGである。一過性徐脈が遅発か遷延かの判読は意見が分かれるかもしれないが、心拍数は緩やかに低下し、緩やかに回復する低酸素による変化で、来院時、すでに慢性の低酸素状態が継続していたようである。
高齢、高血圧、予定日経過。いずれも胎盤循環やその機能に不利益をもたらす。胎盤機能不全は胎児のへの酸素供給を制限し、FGR、胎児機能不全、IUFDなどの原因になる。
日々、多くの症例を取り扱う中で、こうした起伏が少ない(静かな)CTGこそ、見逃しやすい。初心に戻り判読し、適切な対応を示して下さい。子宮収縮は、まだ弱く不規則なようである。
3) 対応(図3)
帝王切開が決定された。手術室入室準備中のCTGである。
CTG所見は変わらず、頻脈、軽度遅発(あるいは遷延)一過性徐脈を認め、胎児低酸素症は間違えない。問題は酸血症がどれだけ進んでいるかだ。
その判断には基線細変動の評価は欠かせない。いずれ解説するが、胎児心拍数波形のレベル分類に置き換えると、基線細変動の判読次第でレベル3からレベル4になる。レベル3と4では、待機か、急速遂娩か、対応は大きく異なる。
ここで、思い出してもらいたいのは症例の背景である。高齢、高血圧合併、予定日を過ぎている。この状態で胎児は、子宮口開大2cmから出産までの旅を終えることができるであろうか。
2.施設内コンセンサス(図4)
この帝王切開決定は施設内コンセンサスである。仮にレベル3の波形と判断すれば、軽度胎児機能不全で、保存的処置が継続される。しかし、それで分娩は成功するであろうか。CTGが悪くなるのを待つのはナンセンスだ。
母体の状況、胎児の予備能力、分娩経過(子宮口開大2cm)を配慮すれば、経腟分娩困難と判断される。いわゆる中等度や高度な胎児機能不全(NRFS)による帝王切開の適応とは異なる経腟分娩困難が適応であった。
こうしたグレーゾーンに対し、施設内で共通の意識(施設内コンセンサス)を持つことは重要である。グレーゾーンの症例に遭遇したら、カンファレンスなどにより、是非情報を共有し、チームで対応を検討していただきたい。