22.ステップアップ10(レベル分類は共通の言語)
再現性の向上、高い臨床的有用性、コミュニケーション能力の向上など、レベル分類を利用する価値は極めて高いのである。とくにチーム医療を行う上で、共通の言語となり、チーム力向上に寄与する。
1.コミュニケーション能力の向上(図1)
- 第1幕「残念な深夜勤」(図1)
総病床数400床の総合病院。産婦人科医師は7名。年間分娩数は600件。深夜勤務の助産師A(31歳)と当直医の一幕である。今夜の担当医は、運悪く、月に1度しか当直しない寝起きの悪いN部長(59歳)だ。
39歳、初産婦。妊娠39週。午後8時、破水で入院した。入院時の胎児心拍数モニターに異常はない。夜半から陣痛が開始したので、助産師Aは再度分娩監視装置を装着した。現在のCTGを示す(図1)。
異常心拍数波形に遭遇するのは誰にとっても、好ましくない。しかも、人出の少ない、深夜勤務時間帯である。モニターを見た助産師Aは、直ちに当直医に連絡する。電話の録音記録を以下に示す。
‥‥‥以下電話記録‥‥‥‥
助産師A「先生。レートが出ていて、少し遷延していて、バリアビリティが少なめです。」
N部長「うーん、じゃあ、モニターを長めに着けて、様子見て下さい。カチャッ」
助産師A「あっ、先生!先生!‥‥‥‥んもーぉ」
寝ぼけて受話器を置くN部長の姿が眼に浮かぶ。
N部長は後にこう叫ぶ。
「なぜもっと早く連絡しなかったんだ!こんなになる前に言ってくれれば‥‥‥‥。」
- 判読し、レベル分類を行う(図2)
もはや解説不要と思うが、どうだろう。心拍数基線160-165bpmで正常脈と頻脈の境にあり、基線細変動は5bpm以下で減少している。前半2つの一過性徐脈は子宮収縮に遅れて心拍数の最下点が出現し、遅発一過性徐脈である。心拍数低下は僅かで軽度だ。引続く2つの徐脈は心拍数の低下が2分を越え、軽度遷延一過性徐脈である。
レベル分類に当てはめてみよう。軽度遅発一過性徐脈でレベル3だ。軽度遷延一過性徐脈であってもレベル3だが、基線細変動が減少しているため、レベル4になる。ちなみに頻脈と判読しても同様のレベルだ。対応は言うまでもなく急速遂娩の実行である。
- 第2幕「レベル分類は共通の言語」
寝起きの悪い人間に、話しかけるのは気が進まない。ましてやほんのわずかな会話で、状況や意思をうまく伝えることは難しい。この問題を解決してくれるのが、胎児心拍数波形のレベル分類である。普段から、CTG判読や手術室のスタッフなどとの緊急対応コードとして、習慣的にレベル分類を用いておくことで状況は変わる。
‥‥‥以下想像される電話内容‥‥‥‥
助産師A「先生。レートが繰り返し出ていて、一部は軽度ですが遷延して、レベル3です!バリアビリティも少なくて、レベル4です。大至急来て下さい!」
N部長「何!レベル4!よし、すぐ行く!体位変換、補液、酸素投与だ! あっそれからオペ室にも連絡!カチャッ」
白いものが目立ちだした頭髪を振り乱し、分娩室に飛び込んでくるN部長の姿が眼に浮かぶ。レベル分類は、様々な職種でチーム医療を行う場合のコミュニケーションツール(共通言語)と言うことができる。
レベル分類は再現性と臨床的有用性を向上させ、チーム医療に欠かせない共通の言語(コミュニケーションツール)になるのである。
ぜひ、試してみてください。