34.緊急避妊の新レジメン?
今年の夏も暑いですがいかがお過ごしでしょうか? 50代半ばを超えて一般病院でローリスクの患者ばかり診ていると、あまり英語論文をチェックすることが少なくなりました。
英語論文は、どんな領域の研究者にとってもチェックしていないと新しいことは生み出せませんが、臨床医は日頃から希少例やハイリスク例を担当している高次施設の先生以外は余程勤勉でもない限り、翻訳ソフトも充実している現代のネット社会では、あまりPubMed等をいじることは少ないのではないでしょうか?
今回は、総説原稿執筆のついでに目に留まったランセットの論文を紹介します。
Li RHW, et al. Oral emergency contraception with levonorgestrel plus piroxicam: a randomised double-blind placebo-controlled trial. Lancet. 2023 9;402(10405):851-858.
香港の研究ですが、緊急避妊法としてレボノルゲストレル(LNG)に加えてピロキシカムというCOX阻害剤を併用すると有効性が高くなる結果です。研究結果が優れていても、すぐ世に広まるかは様々な要素で何とも言えませんが、個人的には有望と思います。
まず背景として、
- 緊急避妊薬による妊娠阻止率は約84%とされていますが、性交後なるべく早期に服用する必要があり、性交後48~72時間に服用した場合の妊娠阻止率は58%程度に低下します。
- LNGは、体重70kg以上もしくはBMI 26 kg/m2 以上で効果が減弱しますし、薬物相互作用から、フェノバルビタール、フェニトイン、プリミドン、カルバマゼピン等の抗てんかん薬やHIVプロテアーゼ阻害剤、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ含有食品でも効果が減弱します。
- 世界保健機関(WHO)では、緊急避妊薬としてLNGまたはウリプリスタル酢酸塩(ulipristal acetate:UPA)が推奨されていますが、安価なヤッペ(Yuzpe)法(中用量ピルであるプラノバール®配合錠2錠ずつを12時間あけて2回服用)は有効性と副作用の点から推奨されていません。
- LNGもUPAも排卵阻止・遅延作用を有しますが、着床阻害作用は認められないことから、排卵後の妊娠阻止作用を有しないことに留意する必要があります。UPAは、性交後120時間以内まで服用が可能で、LNGよりも有効性が高いことから、エラワン(ellaOne®)として個人輸入されて開業医を中心に処方されていますが、国内薬事承認されていない点やUPAの副作用として重篤な肝障害があり、欧州医薬品庁(EMA)は、子宮筋腫の治療にUPAを使用すべきではないと発表しています。
- 以前は,銅付加IUD(intrauterine device, ノバT®380、販売中止)も緊急避妊に使用されていたことから、IUS(intrauterine system, ミレーナ®)を緊急避妊に使用している実態はありますが,適応外使用であることに留意する必要があります。海外ではミフェプリストンが緊急避妊薬として使用可能な地域もありますが、国内では初期妊娠に対する経口中絶薬以外の目的では使用できません。
ざっくりとした結果を上げますと、下記表の通りで、
レボノルゲストレル1.5mgの併用療法としてピロキシカム40mgを単回経口投与することで、緊急避妊効果が有意に向上し、月経の乱れも含む有害事象において、両群間に有意差を認めなかったようです。
妊娠数/服用数 |
妊娠阻止率(%) |
P値 |
|
LNG + プラセボ |
7/418 |
63.4 |
0.036 |
LNG + ピロキシカム |
1/418 |
94.7 |
どうして、ピロキシカムを併用すると有効性が高くなるかといいますと、
- プロスタグランジンは、排卵、受精、卵管機能、胚着床などの生殖プロセスを促進することから、COX阻害剤が、経口EC法と相乗的に作用して排卵および排卵後の両方のプロセスに効くからとされています。
- ピロキシカムは市販されている最も長く作用するCOX阻害剤の1つで、半減期は約50時間です。一方、メロキシカムの半減期は約20時間であり、セレコキシブの半減期は11〜16時間とされています。
もしかしたら、将来の経口緊急避妊薬は上記の併用レジメンになるかもしれませんし、ひょっとすると、妊活されている女性は排卵期前後にNSAIDsの服用をなるべく避けることが推奨される時代がくるかもしれませんね。