41.ジャンプアップ17(急変するCTG-1)

 今回は図説CTGテキスト(メジカルビュー社)から引用したCTGをご覧いただく。比較的、ベーシックなCTGである。

1.判読してください(図1)

 34歳、1妊0産。妊娠37週、分娩第1期のCTGを40分間弱ご覧いただく。CTG直前の内診では子宮口は5cm開大で、胎胞が触知されている。
 順調に経過していたが、↓印で妊婦は突然強い腹痛を訴えた。

想起される疾患あるいは状態と対応は?

2.現場の対応(図2)

 現場の対応を示す。
強い腹痛板状硬から、CTGが装着されていなくても診断はできそうである。また、これだけの徐脈が出現すれば、疾患によらず急速遂娩を行うことに異論はないはずだ。求められるのはスピードである。
 通常出現しない症状や状態に遭遇した場合、重症度と緊急度の高い疾患から検討することを勧める。例えば、腹痛が軽度であれば、HEELP症候群、高度であれば子宮破裂、常位胎盤早期剥離などから除外診断する。
 内診所見から急速な経腟分娩は不可能で、帝王切開が選択される。この症例では、手術室へ移動10分後(帝王切開決定から16分後)に、2826gの男児(pH7.08、アプガースコア1分6点、5分9点)が娩出された。
 pHは低く、危なかったが、迅速に対応できた好事例である。

3.典型的な常位胎盤早期剥離(図3)

 開腹所見で胎児娩出後の子宮壁にクーブレル徴候(溢血斑)が確認された。また、娩出後の胎盤母体面に凝血塊が付着し、約50%近くが剥離し、急性の経過をたどる典型的な常位胎盤早期剥離であった。

 私の施設では緊急帝王切開にレベルを設けており、特に超緊急となる「グレードA」では医師、助産師、麻酔科医、新生児科医、手術室看護師などで年2回程度シミュレーションを行っている(図4)。参考までにグレードAなど、緊急時の対応フローを示す(図5)。医師の負担を可能な限り削減しているのが特徴であろう。夜間、産科医師は1名か2名であるのに対し、母子センター助産師と病棟看護師はそれぞれ3−4名が配備されているためである。


4.常位胎盤早期剥離の誤解

 常位胎盤早期剥離は、脳性麻痺の原因の20%程度を占め注目されている。しかし、このケースのように正期産の分娩進行中の発症は稀である。平均発症週数は34週で、3分の2が陣痛発来前の早産期のものだ。
 正期産の分娩管理中に発症する常位胎盤早期剥離の多くは、発症に気づかず、出産後、胎盤後血腫などで明らかになる。今回のようなケースがないわけではないが、注意して頂きたいのは切迫早産の中に隠れた常位胎盤早期剥離である。典型的な腹痛を呈するものも3-40%程度で、大部分は不規則な子宮収縮やいわゆる腹緊程度の軽微な切迫早産徴候を示すに止まるのである。
 切迫早産の診断に際しては、細心の注意を払い、常位胎盤早期剥離を除外して頂きたい。