41.胎児超音波(胎児精密超音波検査)はどこまでみるべきか?

 妊婦健診中に行われる超音波検査のなかで、胎児の発育やwell-being(元気度)の評価を行う一般超音波検査に対し、胎児の形態異常の検出を目的とした胎児超音波(胎児精密超音波)は、どれぐらい細かく見れなければならないのかなどと疑問をもつ先生方もいらっしゃるかと思います。ここでは、最近の情報を交えてお話ししたいと思います。

 現行の、産婦人科診療ガイドライン産科編2020のCQ106-2(表1)には、胎児形態異常スクリーニング検査における推奨チェック項目というのがあります。妊娠初期、中期、末期の3回施行することを想定して分けて記載されています。しかし、本文書はガイドラインですので、最低限のレベルでの記載かと思います。今年、2023年版に改訂されますが、そのパブリックコメントなどに提示された案において、若干の追加項目はありますが、大きくは変わらない内容となっているようです

 実際、多くの先生方におかれましては、新しい超音波ではいろいろよく見えることなどもあって、もうちょっと細かくごらんになっているのではないでしょうか。胎児超音波検査を解説した本や雑誌なども数多く出版されています。

 しかし、これまでわが国には、胎児の形態評価についての標準的な指標がなく、この産婦人科診療ガイドラインぐらいでした。そこで、もう少し標準的な指標として、和文での解説を含めた文書があったほうがよいだろうということで、日本超音波医学会用語・診断基準委員会において「超音波による胎児形態の標準的評価法」というのが発出されました。

https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/fetal_morphology.pdf

 妊娠初期、中期の形態異常の評価について写真付きで無料で公開されてますので、ぜひ参考にされるとよいかと思います。

 胎児の形態異常の評価は妊娠20週前後の妊娠中期に重きを置いて診ている先生方が多いのではないでしょうか。しかし、昨今の超音波機器の進歩によって、解像度が増し、妊娠中期に診断されていたものが妊娠初期に診断されるものも増えつつあります。妊娠初期の胎児はまだ小さいことや、臓器によっては未発達であることなどから、必ずしも初期に診断しなければならないというものばかりではありませんが、妊娠初期の胎児の形態評価は世界では広く行われていることなどもあり、しっかり系統立てた観察をおこなうことも重要かと思います。前述した日本超音波医学会の解説でも細かく解説されています。

 International Society of Ultrasound in Obstetrics and Gynecology (ISUOG:世界産婦人科超音波学会)からは、最近、妊娠初期の胎児形態評価のガイドラインが更新されました。

https://www.isuog.org/resource/updated-isuog-practice-guidelines-performance-of-11-14-week-ultrasound-scan.html

 英文ですが、超きれいな写真が載っておりお手本としてお勧めなので、ご覧いただくとよいかもしれません。こちらも、無料。

 そこで、実際どれぐらいのものがいつ診断できるか調べてみました。
Diagnosis of fetal non-chromosomal abnormalities on routine ultrasound examination at 11-13 weeks’ gestationというSyngelaki先生から2019年に発刊された面白い論文があるのでご紹介します。
 PMID: 31408229 
 DOI: 10.1002/uog.20844
こちらも無料閲覧できます。

 2009-2018年にロンドンのニコライデス先生らの超音波評価の先端を行っている施設での100,997例の統計です。臓器別の形態異常が初期、中期、末期、出生後のいつにみつかったかの割合が載ってます。繰り返しになりますがこれは超頑張ってみている施設の統計です!! この結果が当たり前ではないことを申し添えます!!
 私の、解説スライドと個人的感想をお示しさせていただきたいと思います。なお、超音波写真は私がとったものです。頭部・中枢神経異常は大きい異常は初期にみつかっているようです。解放二分脊椎症の59%が初期にみつかっているというのはびっくりです!小脳低形成、高度の脳室拡大は中期ですね。口唇口蓋裂が、まあまあ初期に見つかっている一方、口唇裂単独で妊娠中の見逃しがあるのはちょっとびっくり。
日本では健診超音波が多いから、お顔みている回数が多いのもあるのかもしれません。横隔膜ヘルニアが初期にまあまあみつかってますね。大きな心臓異常も初期にみつかっています!大血管の異常は中期ですかね。消化管異常は難しいですね。ダウン症候群などにも併発することの多い十二指腸閉鎖は末期にならないと顕在化しないことが多いですね。腹壁破裂、臍帯ヘルニアは初期に気づきたいところです。巨大膀胱のような下部尿路閉塞疾患は初期にみつけられますが、その他の腎臓の異常などは中期ですね。 大きな骨格の異常は全体のプロポーションが見れる初期のほうが気づきやすいようです。指の本数異常が初期で結構みつかっていてびっくり。

いかがでしたでしょうか?
 妊娠中期で診断していたものが初期にも診断できるようになったものもある一方、やはり中期でないと無理なものもあります。中期や末期にならないと顕在化しない形態異常もしばしばありますので、その時々にあった観察が重要なことと思います。