6.スタートアップ6(圧変化=急速)

スタートアップ6(圧変化=急速)

 一過性徐脈の心拍数減少をなぜ「急速か緩やかか」で判読するかを、理解する必要がある。この対応の理解はCTG判読の根幹をなし、極めて重要である。
 つぎは「急速」を解説する。

1.圧変化による心拍数減少は急速(臍帯圧迫)(図1)

 臍帯圧迫は分娩進行中しばしば観察される。
 臍帯動脈は心臓からわずかな距離にあり、その圧迫により心臓後方の大動脈内の血圧が急激に増加する(後方負荷)。この血圧増加を大動脈弓の圧受容器が感知し、心臓血管中枢にインパルスを送る。心臓血管中枢は副交感神経を介し速やかに心拍数を低下させる。この現象は、いわゆる迷走神経反射で、心臓や脳を圧変化から守ろうとする、極めて急速な反応である。
 CTG上、心拍数減少は急速で変動一過性徐脈と呼ばれる。子宮収縮に伴って発生するが、収縮がない場合でも臍帯圧迫がおこる可能性があり、波形を判読できる。

2.判読して下さい

1) 症例提示(図2)

 27歳1回経産婦。妊娠38週、産徴と前駆陣痛で来院した。来院時のCTGである。
 5つのポイント(胎児心拍数基線、胎児心拍数基線細変動、一過性頻脈の有無、一過性徐脈の有無、子宮収縮の状態)は?一過性徐脈は、低酸素か圧変化か?

2) 判読(図3)

 一目瞭然。低酸素変化とまったく違う。心拍数基線150bpmで正常脈、基線細変動は約10 bpmで中等度である。一過性頻脈はなく、一過性徐脈は急速な心拍数低下で典型的な変動一過性徐脈だ。
 原因はもちろん臍帯圧迫による圧変化である。このあと、変動一過性徐脈は消失し、4時間後自然経腟分娩を迎える。

3.変動一過性徐脈の3つの特徴がある(図4)

① 急速に低下する
 圧変化で速やかに迷走神経反射が出現するため、心拍数の低下は急速である。我々が、急に立ち上がった時に起こる、立ちくらみ(起立性低血圧=迷走神経反射)を想像していただきたい。また、臍帯圧迫の解除により心拍数の回復も急速になる。
② 一定の形(uniform)にならない
 子宮収縮に伴う場合、圧迫の箇所や程度は異なることが多く、波形がuniformにならない。きつい臍帯巻絡や卵膜付着など器質的な原因がある場合、一定の圧迫を受ける可能性があるが、フリーループが体幹や四肢などで圧迫を受ける場合、多くは一過性で、児の回旋や下降により、圧迫の箇所や程度が異なり波形はuniformにならない。
③ 前後に頻脈を伴うことがある(図5)

1)
 一過性徐脈の前後、あるいはどちらか一方に頻脈を伴うことがある。両側の場合、徐脈に肩があるようで、その名の通りshoulderと呼ばれる。
 臍帯圧迫が急速ではなく、比較的緩徐な場合、動脈より静脈が先行して圧迫される。この場合、動脈遮断が起こる前に、静脈血流のみ障害される時相ができる。静脈還流量の減少は圧受容器を刺激し、心拍数を増加させる。また、臍帯圧迫の解除が比較的緩徐な場合、動脈遮断解除後に静脈のみ圧迫が残る時相がある。この間も同様に心拍数は増加することになる。

 変動一過性徐脈は圧変化によるもので、子宮内の低酸素状態を示す所見ではない。しかし、繰り返す場合や圧迫の程度が強い場合、低酸素状態に陥ることもある。
 立ちくらみのような急速な心拍数低下に、肩パットがあり、波形がuniformでなければ、これすなわち、変動一過性徐脈である。