9.スタートアップ9(圧変化による遷延一過性徐脈)
スタートアップ9(圧変化による遷延一過性徐脈)
4つめの一過性徐脈を解説する。心拍数の低下が延長する遷延一過性徐脈である。すでに示した一過性徐脈の原因をご記憶であろうか。基本的に一過性徐脈は「圧変化」か、「低酸素」により発生する。では、遷延一過性徐脈はどうであろう。
遷延一過性徐脈(prolonged deceleration)は、「心拍数減少が15bpm以上で、開始から回復まで2分以上10分未満の波形をいう。その心拍数減少は直前の心拍数より算出される。10分以上の心拍数減少の持続は基線の変化とみなす。最下点が80bpm未満のものは高度遷延一過性徐脈と呼ばれる。」と定義される。
1.判読して下さい
1) 症例提示(図1)
33歳初産婦。妊娠38週、分娩第1期、子宮口9cm開大時のCTGである。既に破水している。波形Aが繰り返し出現していたが、波形Bが出現した。
波形Bを判読して下さい。
2) 判読(図2)
心拍数基線150 bpmで正常脈、基線細変動は10 bpmで中等度。波形Aは子宮収縮最強点と心拍数減少の最下点が一致し、早発一過性徐脈の場所に出現しているが、心拍数の低下は急速で、変動一過性徐脈と判読できる。
波形Bでも、急速に30秒未満の経過で、心拍数が60bpmまで減少している。心拍数低下は2分40秒で、子宮収縮との関係によらず、心拍数減少が2分以上10分未満持続すれば、遷延一過性徐脈と判読できる。
3) 解釈と経過(図2)
この症例では繰り返す変動一過性徐脈の直後に遷延一過性徐脈が出現している。波形Bも直前の変動一過性徐脈と同様に、急速な心拍数減少を呈している。したがって、この遷延一過性徐脈は臍帯圧迫(圧変化)によるもので、低酸素負荷によるものではないと推察できる。実際、この後徐脈は消失し、1時間後に自然経腟分娩に至っている。
2.変動一過性徐脈に引き続く遷延一過性徐脈
遷延一過性徐脈は、その原因により予後も変わる。
1) 症例提示(図3)
29歳初産婦。妊娠37週、陣痛発来後1時間。未破水で子宮口2cm開大時のCTGである。uniformではない波形が連続している。子宮収縮は弱く、まだ分娩は始まったばかりである。この状況をどう評価(判読)し、対応するか?
2) 判読(図4)
心拍数基線150 bpmで正常脈、基線細変動は7-8 bpmで中等度。いずれの波形も急速に30秒未満の経過で心拍数が減少し、変動一過性徐脈と判読できる。後半の波形は心拍数低下が2分を超え10分未満のため、遷延一過性徐脈と判読できる。最後のものはボトムが80bpm未満で、高度になる。
3) 解釈と対応
分娩開始後、比較的早い時期に、臍帯圧迫(圧変化)による変動一過性徐脈が繰り返し(収縮波形の50%以上)出現している。通常、内診はもとより、超音波検査で、臍帯巻絡や下垂の有無、臍帯の捻転や胎盤付着部位の確認、羊水過少の有無などを検索する。対応としては体位変換、補液などが勧められる。酸素投与も悪くはないが、10L/分以下では胎児への移行は期待できない。
4) その後のCTG(図5)
さて、このあとどうなったかCTGの続きをご覧頂く。遷延一過性徐脈はなくなり、小さめながら一過性頻脈が出現している。この後、一過性徐脈の出現することなく、5時間後、自然経腟分娩になった。
この症例で出現した遷延一過性徐脈は、変動一過性徐脈に伴い出現したものである。低酸素状態によるものではないが、臍帯圧迫でも心拍数の低下が著しいと、圧迫解除後も血流回復に時間を要し、心拍数回復が遅延する。
多くは、本症例のように、分娩の進行や胎児の回旋により、臍帯圧迫が解除されると自然に回復する。しかし、強固な臍帯券絡などで圧迫が解除されず、そのまま深刻な低酸素・酸血症に陥ることもあり、発生後は慎重に経過を観察する(すなわちCTGを継続する)必要がある。変動一過性徐脈は予後もvariable(変動する)と言われる所以である。