序
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今回の研修ノート No.116 のテーマは「産婦人科診療 こんなときどうする?」です.近年,私たちを取り巻く産婦人科診療の環境は大きく変化しつつあります.ガイドラインの改訂やエビデンスの蓄積により,標準的な診療方針は以前にも増して明確になりました.しかし,実際の診療現場では,ガイドラインの“原則”だけでは判断が難しい場面や,日々の診療の中でふと悩むような細やかな疑問に直面することが少なくありません.
本号では,産婦人科診療ガイドラインを基盤としつつ日常の外来診療の中で実際に直面している「こんなときどうする?」を幅広く収集し,産科編・婦人科編としてまとめてあります.
産科編では,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)発症時の抗凝固療法,分娩後 VTE 予防の選択,妊娠初期スクリーニングや貧血評価,ワクチン接種,妊婦の就労や栄養指導,妊娠悪阻治療,頸管縫縮術後の管理,自然流産の方針,子宮収縮抑制薬の使い分け,pPROM の抗菌薬,前置胎盤の帝王切開法,妊娠高血圧症候群の管理,巨大児疑いの対応,分娩誘発の許容範囲,産科危機的出血後の次回妊娠,GBS 管理,風疹・HCV 母子感染対応,妊娠中の航空機利用,葉酸摂取の継続,破水例の感染予防,虐待疑い時の対応,胎児共存奇胎,胎盤娩出遅延,帝王切開創部菲薄化,分娩後尿閉,子宮内バルーンタンポナーデの実際など,周産期医療の現場で切実に求められる判断ポイントが網羅されています.
婦人科編では,クラミジア・淋菌の耐性例への対応,非淋菌性子宮頸管炎や陳旧性梅毒の評価,IUS 脱落や LNG-IUS の不正出血,HPV 検診後のフォロー,ジエノゲストや HRT の中止時期,過多月経・AUB・子宮腺筋症の取り扱い,思春期から更年期までのホルモン療法の実際,トランスジェンダー医療におけるがん検診の考え方など,外来で遭遇するものの判断に迷いやすいテーマが数多く寄せられました.
これらは,ガイドラインの原則を踏まえつつも,実際の臨床で「迷いやすい」「診療に苦慮する」問題点に焦点を当てたものです.
今回はその課題に関してスペシャリストの先生方に解説していただきました.本研修ノートが日常診療の一助となり,医会の先生方がより安全で質の高い医療の提供できることを願っております.
最後に,貴重な時間を割いて執筆にあたっていただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したいと存じます.また,執筆・校正・編集などにあたっていただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝申し上げます.
令和8年3月
会長 石 渡 勇