Q6.腸管損傷した際の対応は?

ポイント

  • 外科医の常駐していない1次施設で,手術時に腸管損傷を来した際には,胎児・胎盤の娩出後に速やかに子宮筋層を縫合したのち外科医・産科医が常駐する総合病院への搬送を考慮する.
  • 消化器外科が常駐している総合病院では消化器外科にコンサルトすることを躊躇しない.
  • 帝王切開時の腸管損傷リスク因子としては,開腹歴や腹腔内感染症例などの腹腔内の癒着が挙げられる.
  • 腸管損傷を起こしやすい操作としては,①開腹時の腹膜切開,②子宮に癒着している腸管への侵襲を伴う処置が考えられ注意を要する.

(1)開腹時の腹膜切開時

  • 腹膜の切開時については,まず有鉤鑷子を用いて術者と助手が交互に腹膜を把持し,腹膜の直下に腸管などを把持していないことを確認した上で,メスにて切開を加える.
  • 切開は小さな穴を開けるようにすることで腹腔内に空気が入り腸管が切開近傍に位置していても,さらに下に下がっていき安全に腹腔内に到達できる.
  • 切開を延長する際にも術者は必ず腹膜切開部近傍に腸管が存在していないかを確認することが重要である.

(2)子宮に癒着している腸管への侵襲

  • 一般には子宮下部切開創の近傍に腸管が位置してなければ,癒着剝離などの操作をする必要はないが,子宮切開時に腸管への侵襲が考えられる際には剝離剪刀などを用いて癒着の剝離を行った上での児娩出を検討する必要がある.
  • また,子宮後面と腸管の癒着は子宮内膜症が併存しているような症例で認めることがあり注意を要する.児娩出後に子宮を腹壁外に露出させて縫合する場合や,子宮内腔からの出血が持続する際に子宮圧迫止血法(compression suture)や内腔面の縫合止血などを行う際には子宮の裏側の臓器を損傷しないように注意する必要がある.子宮の動きを伴うような処置を行う際には子宮後面の癒着を確認して行うことが重要である.
  • 実際,腸管損傷を起こした際に,消化器外科がいる施設とそうでない施設で対応は分かれると考えられる.ここでは,産科クリニックと総合病院(消化器外科が常駐)でのそれぞれの対応に分けて解説していく.

1 )消化器外科医の常駐していない1次施設などでの対応

  • 手術時に腸管損傷を来した際には,胎児・胎盤の娩出後に速やかに子宮筋層を縫合した後,外科医・産科医が常駐する総合病院への搬送を考慮する.
  • 自身で修復術を行う際には以下のことに注意する.ここでは腸管損傷時の手術の実際を解説する.

①損傷部位の確認

  • 児の娩出後,子宮切開部位を縫合し止血を確認した後に,腸管損傷部位の確認を行う.損傷部位は腸管内容によって汚染されているため,生理食塩水を含むガーゼや綿球で十分に清拭を行ってから縫合に移る.

②短軸方向への牽引(図31)

  • 腸管に対して長軸方向の損傷でも,狭窄を予防するため修復は必ず長軸と垂直方向の縫合ラインとなるように行う.損傷部位の両サイドの漿膜面に牽引用の吸収糸を置き,この2本の糸を腸管とは短軸方向になるよう牽引することで縫合がしやすくなる.

③腸管縫合

  • 後述のように腸管縫合には主に3種類が挙げられるが,一層縫合と二層縫合と比較した場合,一層縫合は簡便であるが耐性が低いために,通常は二層縫合が選択されることが多い.また層々縫合に比べ,Albert-Lambert 縫合は腸管内腔に突出し物理的にやや狭窄が生じ得る可能性があるため,層々縫合を行うように心がけたい.縫合糸については,感染のリスクを下げるためモノフィラメントの吸収糸を使用し,縫合糸の間隔は3~4㎜にする.

a.層々吻合(図32)

    • それぞれの層と層で縫合するため腸管内腔方面への内翻はない.実際の結紮部位は粘膜面でも漿膜方向でもよい.

b.Albert-Lambert 縫合(図33)

    • 1層目の縫合は内面から外面→外面から内面へと運針し,粘膜を内翻させる.縫合糸は粘膜面に露出してもよい.1層目の粘膜面の縫合部が内腔へ突出するように,2層目の漿膜面の縫合は切離線より3㎜程度の距離をとるようにする.

c.Gambee 縫合(一層縫合)(図34)

    • 約3~4㎜の感覚で両側から中央方向に向けてvertical mattress 縫合を行う.

④術後管理

  • 術後の食事摂取は腸管へのtension を増加させる可能性があるため,損傷部位の修復遅延につながる.食事内容のステップアップは通常の術後管理に比べゆっくりと進めるのがよい.
  • 小腸に比べ大腸はイレウスになる可能性も高いためより注意を要する.
  • 術後の経過が安定していても, 可能なら高次医療機関に管理を依頼する方が安全である.

2)消化器外科が常駐している総合病院での対応

  • 消化器外科が常駐しているような総合病院では消化器外科にコンサルトすることを躊躇してはいけない.
  • 明らかな漿膜面のみの損傷であれば前述のように自身で修復することも可能と考えられるが,損傷部位が大きいようであれば腸管部分切除の判断を要する可能性もある.
  • 腹膜炎や開腹歴既往など腹腔内に高度の癒着が想定され腸管損傷のリスクが高いと考えられる症例においては,術前に消化器外科にコンサルトしておく方がよいだろう.また患者にも十分にその危険性を説明しておく必要がある.
  • 不十分な修復術により術後に縫合不全やイレウスなどが発生した際には,そのリカバリーが非常に困難となるため躊躇せずに応援を依頼するのが最善である.そのためには,日常の診療時から腸管損傷時の他科との連携のあり方を施設ごとに決めておくことも必要である.