平成14年9月16日放送
妊娠・分娩・産褥の保険診療と自費診療について
日本産婦人科医会常務理事 佐々木 繁
昨年10月に「妊娠・分娩における保険診療上の取り扱い」(妊娠・分娩・産褥の保険診療と自費診療のあり方)についての小冊子を発行しましたが、今年7月に会員にお届けしました「医療保険必携」平成14年度版の巻末に、このことに関するQ&Aを掲載いたしましたので、ご一読くださり、誤りなきようご留意いただきたいと存じます。
さて、分娩・産褥におきましては、各種の医療行為が自費診療に属するのか、保険診療に属するのかを明確に区別することです。医療保険上は、医師が疾病と認めて診療を行った場合を異常分娩、それ以外を正常分娩とし、前者は保険診療の対象となり、後者は自費診療となります。明らかな正常分娩、異常分娩の場合には問題は生じませんが、異常の発生が予測されたため手術・処置等を行い、結果的には、ほぼ正常と考えられる経膣分娩に至った場合に、これを正常分娩として自費扱いにするか、異常として保険扱いにするかは迷うところです。「医療保険必携」175頁に示すとおり、医学的適応を十分に満たしていない状態、すなわち異常が明らかになる前の段階で、安全出産に導くために予防の目的で手術・処置等を行い、結果的に(手術・処置が行われたことを除けば)正常経膣分娩となった場合は、自費扱いとなります。この手術・処置の中には、陣痛促進、クリステル圧出法、鈍性頸管拡張法、血管確保、吸引・鉗子娩出術、会陰切開および縫合術(筋層に及ぶもの)等が含まれ、費用は分娩料(自費)に含められます。また、分娩第I期に医学的適応のため陣痛促進を行った場合でも、その後順調に分娩が進行し全体の経過から見て正常経腟分娩と判断される場合は、自費扱いの分娩料となります。一方、医学的適応のため吸引・鉗子娩出術を行った場合は、保険扱いとなり、これに伴って行った会陰切開および縫合術、会陰裂創縫合術(筋層に及ぶもの)も保険診療として取り扱い、別に自費分として分娩介助料を徴収します。要約しますと、結果として正常経腟分娩となった場合は、医学的適応により吸引・鉗子手術を行った場合を除いて、自費扱いの分娩料を徴収します。帝王切開術を行った場合は保険扱いとなり、別に自費分として帝王切開時分娩介助料を徴収できます。
休日・深夜・時間外加算等については、自費分である分娩料、分娩介助料及び保険診療分である手術料等につきましては加算できますが、帝王切開時の自費分である分娩介助料は加算できませんのでご注意ください。
「日産婦医会報」9月号「社保の頁」に掲載しましたが、「分娩介助料」についてご注意申し上げます。
「分娩介助料」について
最近、再び厚生労働省へ患者からの「帝王切開時の分娩介助料」についての疑義、問い合わせが多くなりました。「分娩介助料」については、その意義・内容を患者によく説明し、いささかも不信感をもたれぬよう留意し、特に領収証は保険分と自費分を明確に区別してください。(「医療保険必携」170頁にモデル掲載)
分娩料と分娩介助料の区別及び分娩時療養給付の基準については、「医療保険必携」163頁から165頁に記載してありますが、ここで再確認します。「分娩料」とは、正常分娩(分娩が全く療養の給付にならなかった場合)の用語で、「医師の技術料+分娩時の看護料」を総称したものです。「分娩介助料」とは、分娩時に異常が発生し、鉗子娩出術、吸引娩出術、帝王切開術等の産科手術及びこれに伴う処置等が行われ、入院、産科手術等が保険の給付になった場合の医師・助産師による介助、その他の費用(自費)の請求上の用語であり、「分娩料」を上回ってはなりません。
「分娩介助料」は自費分についての費用であり、保険給付分は含まれません。具体的にいえば、医師・助産師による分娩前の母児の監視、新生児の顔面清拭、口腔・気管内の羊水吸引、臍帯処理、胎盤処理、沐浴等の清拭、分娩後の母子監視等の費用であり、さらに鉗子娩出術や吸引娩出術の際は会陰保護の費用も含まれます。
妊娠時の診察料
- 初診料・再診料と妊婦健診料を同時に徴収することはできません。
- (理由)
両者ともに診療に関わる費用ですが、初診料・再診料は異常妊娠や合併症がある場合に保険請求するものであり、妊婦健診料は特に異常がない場合に各施設で妥当とする額を自費請求するものです。したがって、両者を同時に徴収することは、二重徴収となり不正行為とみなされます。
妊婦健診における診察料と妊婦健診料との関係については「医療保険必携」174頁を参照してください。
合併症を既に有している場合及び合併症を新たに発症した場合の合併症に対する検査・治療等は保険診療になります。- 保険診療のカルテと自費診療のカルテは明確に区別してください
- 保険医療機関は、診療録に療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し、これを他の診療録と区別して整備しなければならないと「療養担当規則第8条」にあります。
- 分娩時の産科手術
- 産科手術にはいろいろあり、それぞれに対し点数がつけられています。これらは重複して発生することが多いため、どのように算定すべきかが問題となります。この場合の運用は、頸管裂傷を伴わない場合、症状に応じて1項目のみを請求します。頸管裂傷と会陰・腟壁裂傷を伴う場合は、頸管裂創縫合術と会陰・膣壁裂創縫合術(1項目のみ)を別々に請求します。頸管裂傷と膣円蓋に及ぶ裂傷を合併した場合は、同一部位に準じ、頸管裂創縫合術又は膣円蓋に及ぶ膣壁裂創縫合術のいずれか一方のみ請求します。
- 分娩に関わる入院料
- 保険入院の原則は、単なる疲労回復、正常分娩または通院には不便等のための入院ではなく、療養上必要と認められた場合であることは、「療養担当規則」に記載してあり、したがって正常分娩後の褥婦の入院は、原則自費となります。異常分娩後の入院につきましては、正常分娩後に比べ著しく衰弱している等の異常状態があって、そのために入院診療を要する場合には、その入院は保険の対象として認められますが、正常分娩後と変わらない状態の場合の入院は保険の対象となりません。肛門、膣円蓋、直腸等に及ぶ会陰・膣壁裂創縫合術や、頸管裂創縫合術が行われた場合には原則として2〜3日を保険入院としますが、その後は主治医の判断によります。その他の産科手術や処置、例えば吸引、鉗子娩出術や胎盤用手剥離術、分娩時子宮出血止血法等が行われた場合には原則2〜3日を保険入院とします。術後著しい変化や異常がある場合は、保険入院の日数は主治医の判断によります。
- 新生児の入院
- 旧日母以来長年にわたり、健康な新生児を療養給付の対象とするのは問題があり、通知の趣旨に沿わない運用が行われトラブルの元になっていると削除を要望してきた「新生児介補加算」が「乳児介補加算」とともに廃止されました。厚生労働省は、その理由として、昭和25年当時は病院・診療所での出生は4%であったが、現在は99%である。一方、同じ健康な新生児・乳児であっても、母親が正常産婦等の場合は自由診療のため、その介補は自費扱いとされ給付の公平性を欠くためと説明しています。今後は帝王切開や経腟異常分娩で生母が保険入院した場合であっても、新生児については「新生児管理保育料」(自費)で徴収することになります。