胎児消化管閉鎖疾患(食道閉鎖、十二指腸・小腸閉鎖、鎖肛)生後の診断、治療、フォーローアップ、予後など
国立成育医療研究センター 小児外科
北野 良博
はじめに
消化管は口から肛門に至る管腔臓器ですが、途中が先天的に閉鎖していることがあります。なかでも直腸・肛門、小腸、食道は閉鎖が起こりやすい部位です。胎児エコーでは小腸閉鎖の診断率は高いのですが、食道や直腸・肛門の閉鎖は診断が容易ではありません。各々どのような症状があって、生後どのように対応するか、順を追って解説していきます。
1.食道閉鎖
【概念】
先天的に食道が盲端に終わり閉鎖している病態です。五つの代表的病型が知られています(図1)が、気管と食道との間に交通(気管食道瘻と言います)のあるC型が大半を占めます。合併奇形の頻度が高く、特に心大血管の奇形が生命予後に大きく影響します。本症の発生頻度は5,000出生に1例程度で、やや男児に多いと言われています。
図1.食道閉鎖の代表的病型
【出生後の診断】
唾液の嘔吐や哺乳時にむせることで異常に気づかれることが一般的です。カテーテルが胃まで入らず、食道盲端で戻ってくることで診断がつきます。腹部単純写真で消化管にガスがあるかないかも病型の鑑別に有効です。
食道閉鎖には合併奇形が多いので、心エコーや腹部エコーを行い、骨格の異常、腎臓の異常、心大血管の異常、気管気管支の異常など、頻度の高い合併奇形を否定していきますが、出生時に全てを診断できるわけではありません。
【治療】
上下の食道盲端が近い場合には気管食道瘻を離断し、食道同士を一期的に吻合します。盲端間の距離が遠い場合には、気管食道瘻の離断と胃瘻造設に留め、食道を延長してから吻合を試みる多段階手術が必要になります。その場合、治療に難渋することが多く、胃、結腸、小腸を用いた再建術が必要になることもあります。心奇形を合併する場合には病態に応じて手術の順序を勘案する必要があります。
【予後】
早期発見や周術期管理の向上により治療成績は向上しています(2008年の新生児外科全国集計では一期的手術の救命率は95.5%、多段階手術の救命率は87.9%でした)が、出生体重や心奇形合併の有無に影響を受けます。
術後にも多彩な合併症(肺炎、吻合部の縫合不全、吻合部狭窄、気管食道瘻再開通、気管気管支軟化症にともなう喘鳴、胃食道逆流症、摂食障害、胸郭の変形など)がみられますので、救命できた場合にも複数回の処置・手術を要することがあり、定期的な通院が必要です。
2.十二指腸閉鎖
【概念】
先天的に十二指腸に閉鎖があり、出生直後から嘔吐で発症する病態です。十二指腸は腸閉鎖のなかで最も頻度が高く、膜様型と離断型に分類されます。空腸・回腸の閉鎖と比較して、ダウン症などの染色体異常や輪状膵、心奇形、鎖肛などの合併奇形が多いことが知られています。黄疸を伴うことも知られています。
【出生後の診断】
出生前に超音波検査で診断されていることが多くなりましたが、出生後の腹部単純撮影で拡張した胃と十二指腸ガスが特徴的です。遠位腸管にガスがある場合には上部消化管造影で確定診断に至ります。
【治療】
胃管で閉鎖の口側を減圧し、電解質異常があればこれを補正した後に手術を行います。膜様型の場合には膜様物を切除しますし、離断型の場合には閉鎖部はそのままにして口側と遠位側の十二指腸を吻合します(ダイアモンド吻合と呼ばれます)。
【予後】
生下時体重と合併奇形に左右されますが、概ね良好な予後が期待されます。
3.小腸閉鎖
【概念】
胎生期の異常によって小腸が閉鎖した状態です。膜様型(I)、索状型(II)、離断型(IIIa)、離断特殊型(アップルピール型、IIIb)、多発型(IV)などに分類されます(図2)。
図2.小腸閉鎖の分類
【出生後の診断】
出生直後からの嘔吐や腹部膨満がみられます。嘔吐は閉鎖部位が下位であるほど遅れて出てきます。胎便排泄が遅れ、色調が白っぽいことも参考になります。診断は身体所見と腹部単純撮影でほぼ確定されます。腸管内の水と空気で鏡面像が多数確認され、下位閉鎖ほどその数が増えます。術前に注腸造影で細い結腸を確認しますが、重症型のHirschsprung病との鑑別は時に困難なこともあります。十二指腸閉鎖ほど高頻度ではありませんが、ダウン症、心奇形などの合併奇形がみられます。黄疸を伴うことも稀ではありません。
【治療】
膜様物切除又は小腸部分切除・小腸端々吻合を行います。拡張した口側腸管と狭い肛門側腸管の吻合が必要で、なるべく口径差をなくして吻合する必要があります。多発閉鎖では吻合部が複数になります。
【予後】
術後の消化管機能の回復には時間を要することがあります。特に吻合径に差があった場合、口側腸管の腸内容うっ滞が続くことがあり、その間中心静脈栄養が必要になります。アップルピール型では残存腸管が短く、予後に影響します。
4.鎖肛
【概念】
先天的に肛門がなく、便が排泄されない病態です。直腸肛門奇形は、鎖肛に加えて肛門の位置異常や狭窄なども含めた多様な病態を示す総称として使われています。発生頻度は出生約5,000例に対して1例であり、男女比は3:2と男児に多くみられます。鎖肛は幅広い病型を持つことが特徴であり、病型により治療方針や機能的予後が異なるので病型の決定が重要です。
病型分類は複雑ですが、基本的には括約筋作用を持つ恥骨直腸筋と直腸盲端との位置関係、瘻孔の位置により高位型・中間位型・低位型と分類されます(表1)。高位ほど重篤な奇形と考えられており、実際に治療も低位型と中間位・高位型とでは違ってきます。
合併奇形が約半数に見られるといわれています。泌尿生殖器系奇形(水腎、水尿管、膀胱尿管逆流症など)、心大血管奇形、脊髄・脊椎奇形、食道閉鎖、十二指腸閉鎖、染色体異常などが知られており、新生児期にレントゲン写真や超音波検査で確認します。
表1.鎖肛の病型分類
男 児 | 女 児 | |
高 位 | 肛門直腸無発生 直腸尿道瘻 無瘻孔 直腸閉鎖 |
肛門直腸無発生 直腸膣瘻 無瘻孔 直腸閉鎖 |
中間位 | 直腸尿道瘻 肛門無形性 |
直腸前庭瘻 直腸膣瘻 肛門無形性 |
低 位 | 肛門皮膚瘻 肛門狭窄 |
肛門前庭瘻 肛門皮膚瘻 肛門狭窄 |
特殊型 | 直腸総排泄腔瘻 |
【出生後の診断】
外表への瘻孔がない症例では、腸管ガスが直腸末端まで到達する生後12時間以降に倒立立位撮影と尿道造影を行います。外瘻孔を有する症例では瘻孔造影と尿道造影で病型を決定します。ただし、倒立立位撮影のみでは直腸盲端の胎便などにより診断が不正確となることもあり、超音波検査も多用されています。中間位型・高位型では、根治手術前に尿道造影や人工肛門からの造影などで病型を再確認します。
【治療】
1)低位型
カットバック法:肛門皮膚瘻に対して新生児期に瘻孔を背側に切開し皮膚と粘膜を縫合します。
会陰式肛門形成術:女児の肛門前庭瘻ではブジーや洗腸で排便管理を行い、生後6ヵ月頃に瘻孔を肛門窩に移植する方法が一般的です。
2)中間位・高位型
新生児期に人工肛門(S状結腸もしくは横行結腸)を造設し、成長をまって肛門形成術を行います。
仙骨会陰式肛門形成術:仙骨から会陰部までの皮膚切開を加え、直腸壁に沿って瘻孔に到達し、恥骨直腸筋を直視下に観察しながら、この係蹄内で直腸を引き抜く術式と括約筋群を正中で縦切開し、直腸後壁を切開して直腸内腔より瘻孔を処理し、括約筋群の中心に直腸を通してから直腸背側の筋群を再建する術式があります。また、高位鎖肛に対して腹部から瘻孔を処理する必要がある場合には腹会陰式肛門形成術という名称が用いられます。
最近では高位鎖肛に対して腹腔鏡下に瘻孔を処理し恥骨直腸筋を損傷することなく肛門を形成する術式も報告されています。
【予後】
生命予後は合併奇形により左右されますが、鎖肛単独での生命予後は良好です。排便機能に関しては、病型や脊髄・脊椎奇形の有無により様々です。一般的に低位型では健康小児と変わらない機能が期待できますが、中間位・高位型では神経支配異常や排便関連筋の未発達などにより、術後に失禁や便秘を認める症例も少なくありません。その場合、長期的に排便訓練や浣腸・洗腸および薬剤による排便管理が必要になります。