妊婦等における
水銀を含有する魚介類の摂食に関する注意事項* * * 平成22年6月改訂
平成15年7月
我々の環境中の水銀
水銀の生物への有毒性はメチル水銀の形で摂取されたときに起こるとされている。現在、われわれを取り巻く環境中の水銀はいたるところにあり、大気中には地球レベルで自然発生した水銀が年間2700〜6000トン、また、人工的産物(工業用、塗料等)としての水銀が年間2000〜3000トン放出されている。これらは、川、海などの環境中の微生物等によって、メチル水銀となり、魚類―ひいてはヒトへととりこまれることになる。
水銀の有害性
過去に日本では、1950年代以降、水俣病、阿賀野川水銀中毒として知られる、神経障害を主としたメチル水銀中毒が歴史的事実として刻まれている。このいわゆる『水俣病』は、今回、報じられた摂取警告レベルとは比較にならない高レベルの汚染であり、妊娠女性からは、胎児水俣病児が出生することとなった。本邦では1973年に魚介類の水銀の暫定的規制値が設定されたが、その後、有機水銀に関する健康上の関心は、必ずしも強くは継続されなかった。欧米ではWHO(世界保健機関)により1976年環境保健クライテリアが報告されている。
魚介類の水銀汚染
1980年前後より、主に魚類等の海産物を中心に食物連鎖(有毒物質を摂取した生物が他の生物に食餌として摂取され、次に、さらにより大きな生物に摂取されることを反復して、有毒物質が累積され、蓄積されていくこと)による水銀の汚染状況が指摘され、さらに、その後おこったイラクでの水銀汚染事故から分析された人体被害状況等から、世界レベルでの魚介類摂取に関する勧告が相次いで出されるに到った。すなわち、2001年の米国FDAの食事指導勧告を皮切りに、英国、カナダ、オーストラリア等にて次々と魚介類の水銀摂取に関する食事指導勧告がだされた。
厚生労働省薬事・食品衛生審議会の通知(平成15年6月3日、平成22年6月11日 )
これらの状況に鑑み、本邦でも厚生労働省薬事・食品衛生審議会、食品衛生分科会、乳肉水産食品・毒性合同部会で検討された結果、平成15年6月3日(平成22年6月11日改訂)、厚生労働省からの『水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項』として、一般の食生活レベルでは人の健康に危害を及ぼすレベルではないが、妊娠している女性は、魚介類等の摂食について、次のことに注意することが望ましいとの通知(厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知)をだした。マスメディアでも大きく取り上げられ、話題になったが、通知の要旨は以下のようなものである。『これまで収集されたデータから、バンドウイルカについては、1回約80gとして2ヶ月に1回以下、コビレゴンドウについては、1回約80gとして2週に1回以下にすることが望ましい。また、キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチ(メバチマグロ)、エッチュウバイカイ、ツチクジラおよびマッコウクジラについては、1回約80gとして週に1回以下、キダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメ、イシイルカおよびクロムツについては1回約80gとして週に1回以下にすることが望ましい。 一方、マグロのなかでも、キハダ、ビンナガ、メジマグロ(クロマグロの幼魚)およびツナ缶は通常の摂食で問題ない。なお、妊娠している方等を除く方々はすべての魚種等について、妊娠している方等にあっても上記の魚種等を除き、現段階では水銀による健康への悪影響が一般に懸念されるようなデータはない。魚介類等は一般に人の健康に有益であり、正確に理解されることを期待したい。』(約80gとは、おおむね、市販されている切り身一切れに相当)。
過剰な反応は無用です
現在、世界中の魚類は多かれ少なかれ、微量の水銀に汚染されているが、水銀の胎児曝露については、1990年のWHOの報告があり、母体の毛髪水銀値が10〜20ppmであると胎児に蓄積され、何らかの障害があらわれる危険性が5%になると報告されている。この数値は、同様にWHOの定める成人に影響のないとされている毛髪水銀値の50ppmより有意に低い数値であり、よって今回の注意事項内容は胎児以外の健康には影響しないものである。日本人は、現在1日平均約8μgの水銀を摂取しており、その約85%が魚介類からである。今回、母体の毛髪水銀値が胎児に影響をおよぼす値をこえないような水銀摂取量を計算し、さらに安全係数としてその10分の1以下になるよう、水銀耐容摂取量が計算された。
いずれにせよ、 水銀含有量の多い魚介類を持続的に大量に摂取しないかぎりこの耐容摂取量を超えるものでないことまた、魚介類はすぐれた栄養成分を含んでいるため摂食の減少につながらないように注意をする必要がある。参考