日産婦医会報(平成23年12月号)入院助産制度
医療政策委員会委員長 千歳 和哉
はじめに
従来は、入院助産が行われる助産施設は病院と一部の助産所と規定されていたが、今般法改正により診療所においても入院助産が利用できるようになった。
経済的に困窮し健康保険等に加入していない妊婦は、入院助産や出産扶助の対象となる。入院助産は児童福祉法第22条により本人からの申請があった場合に出産にかかる費用を公費で負担する制度である。
入院助産と出産扶助
基本的には児童福祉法による入院助産が優先される。ただし、自宅で産んだ場合や指定施設以外で産んだ場合は生活保護法による出産扶助になる。
対象者
出産にあたって、保健上必要であるにもかかわらず、経済的な理由で病院又は助産所に入院できない妊産婦で、出産前に申請した場合に対象となる。
助産施設
助産施設となることを申請し、都道府県の認可を受ける。指定を受けた施設で分娩しなければ制度を利用できない。
行政等との調整
病院においては事務担当者やケースワーカー等が連携にあたる。診療所では、事務手続きが煩雑な面もあるため、行政の担当部署との綿密な連携が必要である。
出産費用の算定
費用は厚労省通知や各都道府県通知の規定により算定さ
れる。
1. 入院料、
2. 入院時食事療養費、
3. 処置料(検査費・薬剤費等)
など通常の分娩にかかるものは厚労省通知により診療報酬の保険点数に準じて請求する。
4. 分娩介助料、
5. 新生児介補料、
6. 産科医療補償制度保険料
は厚労省通知により一律であり、
7. 胎盤処置料は
厚労省通知により実費相当額を算定する。分娩介助料の限度額は185,910円に増額された。
8. 新生児用品貸与料や
9. 新生児介補料加算
は各都道府県により規定されている。
費用例(入院6日間、東京都)を示す。
入院料(入院基本料×日数+各種加算:病院例6日間122,950円、診療所例6日間52,800円。各施設での加算の種類により金額は異なる)
食事療養費(640円×3食×6日=11,520円)
処置料(20,000円〜32,000円)
分娩介助料(185,910円)
新生児介補料(3,810円×6日=22,860円)
産科医療補償制度保険料(30,000円)
胎盤処置料(3,675円)
新生児用品貸与料(500円×6日=3,000円)
新生児介補料加算(3,190円×6日=19,140円)
となり、分娩費用の合計金額試算は、病院では431,055円、診療所では348,905円となる。分娩介助料は増額されたが、いまだに実勢の分娩費用よりも低額である。入院基本料の低い診療所では、さらに低額で算定されてしまい、診療所が入院助産を行うにあたり大きな課題である。
おわりに
現状では公立病院などが対応することが多いと思われるが、産科医療施設の減少や集約化に伴い、助産施設の認可を返上している病院もある。また、周産期センターで入院助産を受け入れることにより、病床が不足しハイリスク妊婦の受け入れ制限が発生することも問題となっている。地域によっては診療所が入院助産に対応しなければならないことも想定される。その場合には、妊婦の社会的リスクや産科的リスクについて十分留意する必要がある。妊婦健診を定期的に受けていない妊婦や妊婦管理に従わない妊婦は産科的リスクが上昇する。入院中にスタッフや他の入院患者とのトラブルが発生することもある。
今後は、日本産婦人科医会が実施する「妊娠等について悩まれている方のための相談援助事業」を利用し、産科的・社会的リスクに対応した妊婦管理を行い、その後の育児支援にも繋ぐことが望まれる。