13.相談されないと対応しない性交痛のケア

 勤務医をやりながら、色々な施設で婦人科検診をやっていますが、以前と比較してルチーンで出てくるクスコが2S(SS)の小さいサイズばかりになってきました。産科や腟壁異常の診察ではありませんので、サーベックスブラシが入って頸管ポリープが視認できる最小サイズで診察した方が、疼痛を嫌がられて次回来なくなるよりはマシなのかもしれません。

実は、女性医学の本コラムを担当しているにも関わらず、性交痛や腟乾燥感等の診療は苦手です。日頃、相談されたら苦手意識を持たずに、きちんと対応しているつもりですが、大して経験症例がないところからすると、相談しやすい雰囲気では無いということなのでしょう。

今回は、閉経関連尿路生殖器症候群GSM、 Genitourinary Syndrome of Menopause)という難しそうな用語から解説したいと思います。ちなみに、GSMは産婦人科用語集にも載っていますが、和訳は色々ありますので、とりあえずGSMとします。

性交痛(dyspareunia)は、GSMの主要症状であり、GSMはエストロゲン分泌減少で会陰部や腟の萎縮・乾燥をきたし、帯下の増加や悪臭、掻痒感、排尿痛も惹起します。
また器質性の障害によらない性機能不全として、性交疼痛症がICD-10の「精神および行動の障害」の「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」に含まれ、性交痛の原因は身体的要因だけないことがわかります。
更年期・老年期のセクシャリティを重視するとされる米国閉経後女性においてでも、44%の女性が性交痛を自覚し、55%の女性が腟乾燥感を自覚しています。これら外陰萎縮症状が更年期・老年期の性機能を低下させると半数以上が自覚するも、うち7割の女性は医療者とその問題について話し合わないとされています。
すなわち、産婦人科診療において内診を日常的に行って腟外陰萎縮症状を目の当たりにしていても、本人の訴えが無い限り性交痛を放置しているのが実態ではないでしょうか?今後は中高年女性の性生活について相談しやすい診療環境が増えるといいですね。

さて、今回は性交痛に対する治療法を列挙してみました。意外と知らない情報が多いのではないでしょうか?

エストロゲン補充療法
エストロゲン欠乏による腟外陰萎縮対してエストロゲン補充を行うと、腟外陰萎縮症状に著効するので、各種エストロゲン製剤の効能・効果として腟(泌尿生殖器)萎縮症状が記載されています。ホットフラッシュ等の症状を伴えばエストロゲン全身投与(経口、貼付・ゲル製剤)を検討しますが、性交痛が症状の主体であれば、エストロゲン活性が比較的低いエストリオール腟錠の局所投与の方が効果も同等で、かつ不正性器出血等の副作用頻度が少なく管理しやすいです。
局所エストロゲン療法には、エストロゲンクリーム、腟錠、腟リングによる投与法が存在しますが、本邦の保険診療においては、エストリオール腟錠製剤のみが腟炎の病名で適用されています。

国内保険診療可能な局所エストロゲン製剤を表にしてみました。この表を作成するまで、E3腟錠なんてブランドの違いを気にしたことはありませんでした。産婦人科医を30年弱やっていて今回初めて知ったのは、
・1mg錠と0.5mg錠がある!(形や重量はほぼ同じ)
・0.5mg錠は発泡剤が入っていて早く溶ける
・0.5mg錠後発品は、薬価19円と先発品(18.6円)よりも高い

どうしてジェネリックの方が高薬価?であることが気になるようでしたら、下記のようなサイトが有用かもしれません。
https://kusuri-jouhou.com/nyuumon/generic19.html

ちなみに、エストロゲンクリームは腟の乾燥を軽減する効果が高い一方で、子宮内膜増殖作用や汚れが気になることによりコンプライアンスが高くない報告があります。また、エストラジオール腟錠(Vagifem® 10μg)においても、低用量であれば子宮内膜増殖を引き起こさず、安全に施行できるとされていますし、エストラジオール含有腟リング(Estring® 2mg)は通常3か月毎に交換挿入を行うようです。いずれも日本では未認可となっています。

オスペミフェン(Ospemifen)
エストロゲン受容体に対して組織特異的に作用するSERM(Selective Estrogen Receptor Modulator)の一種であり、腟上皮や骨にはアゴニストとして作用、乳腺にはアンタゴニスト作用を有します。欧米ではOsphena®の商品名で性交痛に対する薬剤として認可されています(日本では未認可)。プラセボ対照二重盲検RCTの第Ⅲ相試験では、オスペミフェンの1日60mg経口投与により、性交痛の重症度において有意な改善を認めました。

DHEA(一般名プラステロン)
サプリメントでおなじみのDHEAですが、一昔前まではDHEA-S(マイリス®)を頸管熟化剤として、妊婦に注射したり経腟投与したりしていましたが、EBMの潮流のなかで消えてしまいました(今後は、子宮頸管熟化不全に対してPGE2製剤であるジノプロストン、商品名プロウペス®腟用剤が使用されるようになると思われます)。
一方、欧米ではIntrarosa®腟錠(6.5mg)の商品名で、性交痛に対する薬剤として認可されています(日本では未認可)。2つのプラセボ対照二重盲検RCTの第Ⅲ相試験において、中等度から重度の性交痛に改善を認め、帯下増量以外に目立った副作用はありませんでした。

レーザー照射
レーザー治療機器の進歩は著しく、最近では非蒸散性のEr: YAGレーザーを用いて、GSMだけでなく、腹圧性尿失禁や、骨盤臓器脱、腟弛緩、外陰部のホワイトニング等の美容領域への応用も拡がっていますが、保険適用はなく、同じレーザー装置でもコンジローマや異形成も一緒に蒸散することはできませんので、保険診療主体の病院に導入するのはハードルが高いかもしれません。

その他の治療
腟の乾燥感に対して保湿剤、性交時の疼痛軽減目的で潤滑剤(リューブゼリー®)が用いられており、これらと骨盤底筋群のリラクゼーションを併用により性交痛を改善する効果があるとされています。
また、漢方療法が高齢者の慢性外陰・会陰痛(vulvodynia)に対して処方されますが、更年期女性の性交痛治療と比較すると改善率は低く、治療に難渋するケースが少なくありません。