【第1回】1.我が国の周産期医療の現状
戦後、我が国の周産期医療は著しい進歩をみせ、お産で不幸な結果になることは、極めて稀になりました。1950年に176.1 (出産10万例あたり)であった妊産婦死亡率は、2020年に2.8まで低下し、1980年に20.2(出産1000例あたり)であった周産期死亡率は、2020年に3.2まで低下しています(図1)。
(図1)
我が国は、先進国の中で妊産婦死亡率が最も低い国の1つであり、また周産期死亡率は最も低い国になっています(図2)。
(図2)
このようにお産の安全性が高まった理由は、周産期医療の進歩、医療体制の整備などいろいろ考えられますが、興味深いデータがあります。
(図3)
図3に示すよう、第二次大戦後、分娩場所は自宅から病院、診療所などへ大きく変化し、これに合わせて妊産婦死亡率が減少しています。施設分娩が大半となり、安全に分娩管理が行えるようになったことが、周産期医療成績の向上に役立ったと考えられます。一方、生涯に経験するお産の回数は減少し、初産年齢も上昇しています。1950年には第7児を出産する女性もそれなりの割合でいましたが、2020年には第3児までの方が大半で、第4児以降を出産される方は稀になっています(図4)。
(図4)
女性が生涯に出産する子の数を示す我が国の合計特殊出生率は他の先進国と同様、年々減少し、2020年は1.33でした(図5)。
(図5)
また、第1児出産時年齢も、1951年には29歳以下の方が大半でしたが、2019年には、30歳以上の方が半数以上となっています(図6)。
(図6)
出産年齢の高年化にともない出産リスクは上昇しますが、社会はお産が安全に行われるのは当然と考えるようになり、少ない回数のお産を快適に、満足のいく形で経験したいという女性が増えています。また、インターネットの発達に伴い、お産や育児に関する情報が氾濫し、不確かな情報も増えています。そのため、不安が煽られ、お産や育児に関する相談を求める女性が増加する一方、良好な母子関係、家族関係の形成障害による児童虐待の増加が社会問題となり、児童相談所における虐待相談件数は、1999年に11631件だったのが、2020年には205040件と、わずか20年余りで17倍に急増しています(図7)。
(図7)
こうしたことから、お産、特にローリスク妊娠、分娩においては、従来の管理型産科医療から支援型産科医療への転換が求められています。