14.レフェリーからのコメントとその対応

論文を送ったからといって、すぐにアクセプトされることはまずない。逆にすぐにアクセプトされるのは本連載で先に述べたハゲタカジャーナルの疑いがある。多くの科学雑誌では、投稿を受け付けると、Editor(編集委員長あるいは副委員長や編集委員)が査読者に原稿を送る。編集者と査読者は著者が誰かは分かるが、著者には分からないシングルブラインド方式が多い。
査読期間には大体2週間をとるので、その前後の事務処理を含めて1か月から2か月以内に結果が出ることが多い。査読の結果は、以下の4種類に分かれる。あまり時間がかかっているときは問いあわせてもよいが、たいていはレフェリーが見つからないか、引き受けてもらっても返事が遅くてEditorも困っていることが多い。最近は採択決定が遅いと、Impact factorが下がるので複数のレフェリーに多めに依頼して早めに返事をくれることが多い。

Editorからの返事は
1.accept  そのまま通してよい
2. minor revision 字句や言い回し。結果の解釈の追加修正、図の修正など 追加実験を要求しないもの。
3. major revision 追加実験や、示されていないデータの記載など、根本的な修正を要求
4. reject 却下。大幅な加筆の上での再投稿(新規投稿)を示唆する場合と二度と送らないでほしい場合がある。

これ以外に、あまりに科学的な程度が低い場合、あるいは論文不正が疑われる場合はレフェリーに回らず、編集者レベルでimmediate rejectになることがある。Nature, Scienceクラスではimmediate rejectが極めて多いが、これは先方のレベルが高すぎるのである。投稿後、どのプロセスにあるかは多くの場合、ネット上で確認できるので ”under review“になっていればひとまずは安心できる。
さて、査読結果。一発でアクセプトが来ることはあまり期待しないほうがよい。筆者の30年にわたる投稿歴を振り返っても、一発アクセプトは数えるほどしかない。従って、必ず何か修正要求が来ると思ったほうがよい。大事なことは、レフェリーが何を要求しているかを正確に理解し、的確に答えることである。

そのためには、査読結果を受け取ったら、すぐに加筆あるいは反論するのではなく、共著者全員で査読意見と最初の原稿をよく読み直すことが重要である。中には、非常に無礼な査読をよこす人もいるが、多くの場合は自分たちの気が付かない点を親切に指摘してくれているのである。明らかに、誤解や不勉強に基づく意見をよこしてくる査読者もあるが、そういった時も感情的にならず、淡々と根拠(自分の実験結果や既出論文)を挙げて反論する。あまりにひどいときは編集者に意見を言って他の査読者に見てもらうように要求することもあるが,大抵はその領域であるていど名が通っていて業績もある人に送っているので良い結果にならないことが多い。

反論あるいは修正するにはまず、レフェリーのコメントを箇条書きにする。むこうが親切に箇条書きにしてくれる場合もあるが、一連の文章になっている場合もある。いずれにせよ、相手の意見を個別に(point by point) 羅列してこれに論理的に答える。この時に、自分が答えやすいようにむこうの質問やコメントを書き換えてゆくのもテクニックの一つである。

同じ文化や価値観で育った日本人は、相手が空気を読んでくれることや自分の意図を読み取ってくれることを期待しがちだが、経典の民であるユダヤ・キリスト教、あるいは古代ギリシア・ローマの弁論術。修辞法の伝統ある西洋人(東洋の出版社や科学者でも科学の世界は西洋の論理)には理屈で説明して納得させるというプロセスが必須であり、アカデミアで生き抜くにはこれに慣れてゆくしかない。修正原稿を再投稿してアクセプトされる場合もそうでない場合もある。
しかし、たとえリジェクトされても、査読者の意見を参考にして他のジャーナルに投稿できるので、レフェリーとのやり取りは無駄にはならない。人間、どうしても自分の論文には甘くなりがちなので、これが真に科学的に価値があるのか。
もし受け入れられない場合、どこに問題があるのかを見直す良い機会になるからである。