23.こんな時どうする?~ホルモン療法で改善に乏しい思春期の過多月経

 埼玉県のある町の病院で毎週外来診療をやっています。そこの外来看護師(40歳代)が以前から過多月経・月経困難があるということで、診察で明らかな器質的疾患がないことを確認して、ジエノゲストを処方しました。その時のやりとりを紹介します。

医師(私):「最近どうですか?」
看護師:「とても良くなりました。ところで、中学3年生の娘も生理がひどいので連れてきていいですか?」

~1週間後(初診)
看護師の娘:「毎月生理になると、量も多いしお腹も痛いので学校休んでいます」
医師(私):「(経腹エコーしながら)子宮や卵巣に異常がなさそうなので、LEP処方します。」

~2か月後(3回目再診)
医師(私):「薬しばらく飲んでみてどうですか?」
看護師の娘:「だいぶ良くなりました」
医師(私):「(血液検査結果を見ながら)それでも月経終了後のヘモグロビン値が低い(8.4g/dL)ので、お母さんと一緒の薬に替えて鉄剤も処方します。こども医療でお金の心配もないし、不正出血が持続するのが気になるなら、3,4日休薬して構いません。」

~2か月後(5回目再診)
医師(私):「具合はいかがでしょう?」
看護師の娘:「良くなっていると思いますが、この前3日間ジエノゲストを止めたら結構出血しました」
医師(私):「(経腹エコーしながら心の中で)子宮内膜も薄いので、中学生に内診して内膜検査するほどでもないし、どうしようかな~?」

 その時、あることを思い出して、血液検査をして処方継続としました。
血液検査の結果です。  

             WBC 5,500/μl, Hb 12.8 g/dL, MCV 78.3 fl, PLT 22.8万/μl,          CA125 12.3 U/ml, TSH 1.44 μg/ml, FT3 2.65 pg/ml, FT4 1.24 μg/ml, LH 2.7 mIU/ml, PRL 9.7 ng/ml, APTT 33.2 秒, PT 11.9秒, FIB 209.3 mg/dL, D-dimer 0.2 μg/ml, 第Ⅷ因子 40%(基準値:60~150), VWF 50%(基準値:60~170)

 結局、どうしたかと言いますと、von Willebrand病(以前はフォン・ビルブランド病と読まれていましたが、最近はフォン・ヴィレブランド病と表記するようです)の診療ガイドラインの作成委員名簿をみて、担当医指名で都内の専門医療機関を紹介しました(単に高次病院の血液内科を紹介しても、頻度の少ない当該疾患に興味がない医師にあたると紹介の意味がありません)。

 フォンヴィレブランド病は、血友病よりも頻度が少ないですが、男性がほとんどを占める血友病と違い、男女同頻度で発生する先天性の出血障害です。フォンヴィレブランド因子(VWF)の遺伝子異常により1~3型まであり、約7割は軽症の1型とされています。

 この母子は、約半年間かけて専門医療機関で遺伝子検査(研究検査が多く自己負担はほとんどなかったようです)等を行った結果、赤血球(楕円形で溶血性貧血リスクあり)と血小板(巨大血小板で機能異常無し)の遺伝的な形態異常である診断がつきました。

 VWFの遺伝子異常はなく、他疾患(血小板無力症、ベルナール・スーリエ症候群など)も否定的されました。母子共にO型であることが第Ⅷ因子やVWF軽度低値を示すそうです。

 結果的には、フォンヴィレブランド病ではなく、手術や分娩時に血液製剤を投与する等の特殊な治療や日常生活の制限も不要で、ジェノゲスト継続に加えて鉄剤とトラネキサム酸を適宜追加することになりましたが、家族性に出血素因があることが判明しました。難病や重症疾患ではありませんでしたので、「体質ですよ、と言って済ませるのと普段は変わりません」と説明しましたが、現代の遺伝子医学・医療の進歩には目を見張るものがあります。

 ところで、何を思い出したかと言いますと、日本産婦人科医会では今年末に研修ノートNo.109「異常子宮出血(AUB)―PALM-COEIN分類に基づいた原因検索と対応―」が発刊予定となっていることです。AUBに対するPALM-COEIN分類を理解していると、過多月経の約13%がフォンヴィレブランド病と診断される報告に目がとまります。要するに内膜増殖症や筋腫、子宮内膜症等の器質的疾患以外にも、血液凝固障害による非器質性過多月経が意外と多いということです。AUBやPALM-COEIN分類に関しては、本シリーズの「5.やっているけど書かれていない閉経前期の不正子宮出血・月経不順の対応」でも触れていますのご参照ください。

 思春期女性は内診等の精査のハードルが高い割に、将来分娩等で出血するイベントに予め対応できるかどうかの診断が大変重要となります。思春期における頻度の低い月経異常の代表は子宮・腟の先天性形態異常等が有名ですが、フォンヴィレブランド病以外にも家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever, パイリンの異常で発症する自己炎症性疾患・難病指定、月経時をはじめとする発作性の発熱、胸腹部の疼痛、関節腫脹が繰り返される遺伝性疾患)も知っておくと、1人や2人は見つけられるかもしれません。