24. 婦人科診療で内診していますか?

 今回は産婦人科の代名詞ともいえる内診についてとりあげてみます。産科では、分娩の進行度を見極める上で現在でも重要な手技でありますが(それでも正診一致率は5割に満たないようです)、婦人科診療では今や経腟エコー頼みであることも多く、ルチーンでやらない先生方も少なくないのではないでしょうか?実は20年間以上、婦人科診察において内診台で腹部所見を取って経腟エコーやクスコ診を行っていますが、ルチーンで内診はやっていません。

 自身がフレマン時代、先輩方に「先生は内診をどのようにやっていますか?」と(今思えば意地悪な)質問をすると、たいていの先生方は適当にごまかしていました。しかし、ごく一部の先生方は内診の手技、チェックすべきポイントの順などを詳細に解説されていました(そのような先生方は今では名医として知られています)。その当時、某大学の教授が、「私はルチーンで婦人科内診をせず、経腟エコーを活用している」と講演されているのを聞いて、「何て権威的でなく合理的な発言だろう!」と感動していましたが、その後は教育的立場にある先生方から表立った同様の発言を聞かなくなりました。

 診断学として身体・理学的所見を取ることは現在も基本でありますし、どうせ経腟エコーを挿入するのであれば、腹部・内診所見を取ってからエコーで確認する手順は、「木を見て森を見ず」的なピットフォールに陥るリスク回避にも有効です。一方で、海外の教科書等を参考に非産婦人科医が救急の一般診察ベッド等で、若い女性の下腹痛とかに内診や直腸診を無思慮に行ったら日本ではトラブルになる可能性が高いと思います。

 まとめますと、以前から私が婦人科における内診についての疑問を持っていますが、それについて個人的見解を紹介します。

  1. Q:内診することに意義があるのでしょうか?
    A:(個人的には)患者さんの苦痛の割には意義が少なく、ルチーンには行っていません
     先述しました通り、例えば巨大腫瘍の存在や他科疾患による腹痛等は、経腟エコーのプローブ近傍の像だけに捉われると見落とす可能性がありますので、経腟エコーの過信は禁物です。また、検診とかの経腟エコーで漿膜下子宮筋腫をいくら見つけても無用な精密検査にまわるケースが増加しますので、所見に対する管理指針は重要です。
     一方内診では、後屈子宮の体部や直腸内の便塊等の所見が腫瘍と紛らわしい場合もあります。丁寧詳細な内診所見を取ることは、患者さんへの長時間苦痛を伴うことでもあり、経腟エコーで短時間に確認できる所見がほとんどです。

  2. Q:内診のエビデンスや方法を記載した教科書はありますか?
    A:少ないですが、全くないわけではありません。
     内診の意義があまりないことを主張するだけなら、主張することにあまり意義は乏しいと思います。せっかくこのようなヒマなことを考える際に、内診にまつわる情報を少しでも紹介できることが重要と感じます。
     産婦人科専門医のための必修知識には、2ページにわたり内診の要点が記載されています。Berek & Novak’s Gynecologyでは第1章に7ページにわたり記載されています。海外の有名な教科書は、どの診療科も分厚いですが、「当たり前」の内容であっても系統立って記載されていますので、このような領域こそ海外の教科書を読んでみる価値があると思います。
    これらのうちで、個人的に興味がある内容を抜粋しますと、
    • 砕石位で適切にドレーピング、内診指はグローブを装着する。

       ➡コロナ時代では、ドレーピング、スリッパは適さないかもしれません。また、両手手袋(+フェイスシールド)が診療の標準でしょうか?

    • 小児や思春期女子の診察方法、体位、被虐待児の対応について詳述されており、必要に応じ処女膜にリドカインゼリー塗布や麻酔鎮静下での診察も勧めています。

      ポイントは、内診だけでなく問診や通常の腹部診察、クスコ診、直腸診も同列に重要であり、これらをおろそかにして経腟エコー(やその他画像・血液データ)だけで安易に診断しないことです。これらの検査は診察所見で推定される診断を確認しているだけで、経腟エコーが気軽に使える日本においても診断の見落とし予防の観点から基本といえます。