25.胎盤・臍帯の超音波像
いままでは、主に胎児の超音波所見について述べてきたが、ここからは胎児付属物の超音波所見を解説する。胎児は受精卵から作られるが、胎児付属物(胎盤や臍帯、羊膜)も受精卵の一部から形成される。これらは、胎児が子宮内で母体から栄養や酸素を得て老廃物を母体血に引き渡すために必要な、いわば胎児の生命維持装置である。そのやり取りのために、胎盤、臍帯には母児の血液が多量に潅流しており、その異常の発生は胎児の生命だけでなく、母児の各種トラブルや後遺症と深く関連する。胎児だけでなく、妊娠中の胎児付属物に対する超音波診断も重要である。
正常の構造
正期産の分娩時の胎盤は、20cmぐらいの円形か楕円形をしており、臍帯はその中央か側方に付着しているのが正常である。重さは400-500gで、子宮内では子宮壁に付着して、その壁(母体側)から供給される母体の血液と、臍帯(胎児側)から運ばれる胎児の血液を受け入れる。
臍帯は、50cmぐらいの長さ、2cmぐらいの太さがあり、中に2本の動脈と1本の静脈が走行している。動脈は胎児の心臓から送り出される血液が胎盤に向かって流れ、静脈は、胎盤から胎児のほうに向かって流れる。臍帯は、胎盤と胎児の間の物質を輸送する重要なパイプで、胎児の可動性をよくし、外力など圧迫を避けるために羊水中に細長く浮遊している。臍帯血管はワルトン膠質という弾力のある組織で守られており、そして臍帯は、牽引や圧迫、捻転などの外力に抵抗性をもち、臍帯血流への影響を緩和するために生理的に軽く捻転している。また、2本の臍帯動脈は、胎盤に入った直後に一度吻合してから胎盤内で樹枝状に分岐することで胎盤への均等な血流分配を行っている。枝分かれをした臍帯動脈は毛細血管(絨毛血管)となる。
絨毛は、子宮壁(螺旋動脈)から流れ込む母体血(絨毛間腔)に浸かった状態で、絨毛組織を介して、母体から胎児側へ酸素や水、栄養、胎児から母体側へ二酸化炭素などの不要な物質などの受け渡しを行っている。
胎盤の正常像
妊娠初期は、将来胎盤に育つ部分(繁生絨毛)か退縮して薄い膜になる部分(絨毛膜無毛部)かの区別がつきにくく、おおむね妊娠16週をこえてくると胎盤とそれ以外の絨毛膜との境界がはっきりしてくる。また、まだこの頃は、羊膜と絨毛膜が癒合しておらず、浮遊した羊膜を認める(↑)。羊膜の内側が羊水腔で、羊膜と絨毛膜のあいだが胚外体腔である。胎盤と子宮筋の間の脱落膜領域には、薄い線状エコーがみられclear zoneと呼ぶ。
妊娠16週以降、臍帯付着部は中央かやや側方に付着しているのが描出できれば正常である。胎盤の下縁が子宮体部にあるか、内子宮口近く、胎児先進部より下にないかを確認する。経腹超音波での内子宮口のおおよその位置は同定できるため、内子宮口近くに胎盤があることが疑われる場合は、前置胎盤の診断手順に従って、妊娠20週以降の適切な時期に経腟超音波でも確認する。
妊娠の早い時期の胎盤実質は均一なエコー輝度で描出されるが、妊娠週数の経過に伴って、絨毛血管の発達などで分葉が明らかになってくる(胎盤のグレードが進むと表現される)。妊娠週数が進むと、正常胎盤であっても一部の絨毛間腔が拡大している所見や、石灰化などもみられることがある。母体の出血や胎児発育不全などの合併がなければ特に問題はない。
胎盤辺縁には、絨毛間腔の血液が子宮へ排出されるときに通る辺縁静脈洞が描出されることがある。絨毛間腔と同様な緩やかな血流を伴う低エコー領域は辺縁静脈洞である。
臍帯の正常像
羊水腔に浮遊する臍帯のfree loopにおいては、断面で2本の臍帯動脈と、1本の臍帯静脈を観察できる。臍帯静脈のほうが太く描出される。臍帯の長軸像では臍帯の捻転の強さを確認することができる。
胎盤上の臍帯付着部は、胎盤全体を広くスキャンすると、臍帯が付着している場所として確認できる。カラードプラで探すと、はみだし現象によって付着部を見間違えることがあるので、B-modeであたりをつけて、カラードプラで確認するのがよい。