27.よくあるガイドラインのうろ覚え

 今年の酷暑はいつまで続くのでしょうか? さて、産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(産科編も)2023年版が先月8月に発刊となりましたのはご存じでしょうか?(今回は日産婦学会学術集会開催時期とと発刊時期がずれています)

ガイドラインの作成に曲りなりにも数年関わってきていますが、ガイドライン記載内容のうろ覚えで日常診療をやっていることが多いことに気付くのは私だけではないような気がします。

 

具体例(①はなんと自験例です!)を挙げてみます。

  1. 20歳代の1日15本以上喫煙する患者に「禁忌事項に該当するので、OC/LEPを処方することはできません」と説明した。
  2. OC/LEP服用患者に「あなたは40歳になったのでOC/LEPを処方することはできません」と説明した。

 

1. 20歳代の1日15本以上喫煙する患者に「禁忌事項に該当するので、OC/LEPを処方することはできません」と説明した。

普段の外来で、年齢を考慮せずに1日タバコ15本以上吸うとか聞いた瞬間に、即OC/LEP処方をやめていませんか?

  もちろん、危険な判断ではありませんが、患者さんが35歳未満で他のリスクがなさそうなら、禁忌ではなく慎重投与に該当します。診察状況から投与リスクよりもメリットが高いと判断したら、慎重に投与しても問題ありません。

  何が問題かと言うと、自身のガイドライン等の不正確な理解が起因していることに気付かず、慎重投与症例に対して何となく個人の価値観で選別する結果、本来必要な患者さんが治療の恩恵を受けられないことにあります。

 最近ではジエノゲスト(0.5)錠が月経困難症の適応で発売されていますので、LEP処方を検討する場合には、こちらを第一選択にするのが無難とはいえ、この辺はガイドラインの中身を正確に覚えておいても症例の頻度的に損はないと思います。

2.  OC/LEP服用患者に「あなたは40歳になったのでOC/LEPの継続処方をすることはできません」と説明した。

  上記①の事例から、喫煙よりも年齢の方がOC/LEP副作用リスクの寄与が高そうであることが理解できますが、OC/LEPの普及に伴い2013年に血栓塞栓症の死亡例の報道がなされて、2015年にOC/LEPガイドラインが作られると、②のように40歳になったらOC/LEP処方が一網打尽に中止されてしまう日常臨床における問題が生じました。

 現在の2020年版のOC/LEPガイドラインでは、多少表現が柔らかくなりましたが、もう少し具体的なリスク詳細を把握したい先生方は、時間のある時にOC/LEPガイドライン2020年版を読んでおきましょう。諸外国と比較して普及率は明らかに低いとはいえ、OC/LEPが広く処方されている現在では、多くの病院循環器科においてOC/LEP服用で血栓塞栓症を発症した患者さんがチラホラ見受けられる現状があります。

 リスク評価について慎重投与・禁忌の2カテゴリーよりも、もう少しだけ知りたい多忙な先生方には、WHO適格基準による4カテゴリーを紹介します。

 

カテゴリー1や4は誰でも理解できますが、カテゴリー2の主な適応は覚えて、いたずらに処方機会を奪わないような配慮が必要です。
カテゴリー3は国内ガイドラインでは禁忌となっていませんが、「処方できない場合」に該当しますので、大雑把な解釈は、「35歳以上で他のリスク因子があれば処方をやめておいた方がよい」ということです。あと問診に加え、年齢に関係なく血圧測定も大事です。
OC/LEP副作用リスクに関するOdd ratioは、副作用の重篤性にもよりますが、慎重投与でOR 2~3、禁忌でOR 6以上あたりで設定されています。慎重投与・禁忌の2カテゴリーよりも、WHO適格基準の4カテゴリーの方がカテゴリー数が多く細かく設定される分、相関が強いと考えられます。