30.産後うつ病の新薬ズラノロンとは?

 周産期医療が進歩した現在では、自殺が妊産婦死亡原因の最多であることは先生方ご存じの通りだと思います。また、最近では抗体医薬などがもてはやされていることから、精神科の薬なんてあまり変わっていないんじゃない?と思われているかもしれません。

 米国食品医薬品局(FDA)は、2023年8月に、産後うつ病に対する初めて経口治療薬としてZurzuvae(一般名ズラノロン、zuranolone)を承認しました。ズラノロンは1日50mg毎夕2週間、脂肪の多い食事と共に摂取する経口薬です。2019年にZulresso(一般名ブレキサノロン、brexanolone)が産後うつ病に対する治療薬として承認されていますが、60時間も点滴する必要があり、意識消失の副作用が報告されていました。

 ズナノロンとブレキサノロン共に他の抗うつ薬と比較して治療効果発現が早い特徴を持ちますが、どうして「産後うつ病」に適応があるかというと、どちらもプロゲステロンの副産物である神経ステロイドのアロプレグナノロン(allopregnanolone; ALLO)を有効成分とします。産婦人科医なら理解しやすいと思いますが、分娩によりプロゲステロンが急減することにより、産後うつ病を惹起する可能性が考えられています。

 ズナノロンは、GABAA受容体に結合してGABAのシグナル伝達を促進して抗うつ作用を発揮しますが、副作用は眠気(36%)、めまい(13%)等があるようで、国内では塩野製薬が、うつ病に対する第Ⅲ相試験を行っているようです。