6.子宮頻収縮(tachysystole)について

 「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」が発刊されたが、その中で子宮頻収縮という用語が使用されている。この用語はtachysystoleを翻訳したもので、産婦人科用語集には記載されていない。子宮収縮回数が10分間に5回より多い場合をいうが、子宮収縮薬を使用する際に胎児心拍数陣痛図で注意して観察すべき重要なポイントになるので解説する。
 オキシトシンやプロスタグランジンF2αによる子宮収縮薬の投与方法はガイドラインで厳しく規定されており、規定に従った薬剤投与法が広く浸透している。この子宮収縮薬の投与中には、2時間ごとに血圧と脈拍数とをチェックすること、分娩監視装置を連続装着すること、また、その評価を分娩第1期は15分間隔、第2期は5分間隔で行うこと、また、過強陣痛や胎児機能不全にないことを観察することが推奨されている。
 ここでいう過強陣痛であるが、産婦人科用語集には「臨床症状名としても用いられ、収縮が異常に強く、その持続が異常に長いものをいう。45秒以上持続するものを長い陣痛とする」とある。しかし、過強陣痛を客観的に評価することは難しいので、子宮頻収縮という概念がでてきた。子宮収縮回数が10分間に5回より多い場合を子宮頻収縮と定義し、そのような状況が子宮収縮薬投与中に発生した場合には投与量を半減あるいは中止することが推奨度Bで規定されている。また、胎児心拍数陣痛図波形分類でレベル3以上は胎児機能不全と判断されるため、そのような状況でも子宮収縮薬投与量を半減あるいは中止することが規定されている。
 産科医療補償制度原因分析委員会で、事例の審議を行っていると、子宮頻収縮が続く状態の後に児がレベル3以上の胎児機能不全の状態に転じ、徐々に胎児機能不全の状態が重症化し、結果的に重篤な胎児低酸素・酸血症をもって出生し、児が脳性麻痺に罹患することとなった事例を見かける。子宮頻収縮があるにもかかわらず、有効な陣痛とは判断せずに子宮収縮薬の投与量を時間通りに増量していくことも多いと思われるが、改訂版のガイドラインに照らして考えると、基準逸脱と判断されることにもなる。
 今回のガイドラインの改訂によって、子宮収縮薬の点滴での投与量を増量する際には、胎児機能不全や子宮頻収縮がないこと、前回投与量増量から30分以上たっていること、最大投与量に達していないことを確認する必要性が、推奨度Bで明記されている。再度、適正な子宮収縮薬の投与法についてガイドラインの記載を確認していただきたい。

※「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」より関連項目のQ&Aを抜粋

CQ415-2 子宮収縮薬投与中にルーチンに行うべきことは?

1. 2時間ごとに血圧と脈拍数をチェックする.(B)
2. 分娩監視装置を連続装着して,胎児心拍数陣痛図として記録する.(A)
3. 分娩第1期は約15分間隔,第2期は約5分間隔で胎児心拍数陣痛図を評価する.(C)
4. 以下のいずれかがあれば過強陣痛等の異常を疑い,CQ415-3のAnswer 2を実行する.(B)
 ① 子宮頻収縮:tachysystole(子宮収縮回数>5回/10分)
 ② 胎児機能不全(レベル3~5の胎児心拍数波形の出現)

CQ415-3 子宮収縮薬投与中の増量・再投与あるいは減量・中止については?

子宮収縮薬の増量および再投与について
1. 静脈内投与増量,または内服中の再投与時は,以下の要件をすべて満たしていることを確認する.(B)
 ① 分娩進行に対して子宮収縮が不十分と判断される
 ② 胎児機能不全(レベル3~5の胎児心拍数波形)がない
 ③ 子宮頻収縮:tachysystole(子宮収縮回数>5回/10分)がない
 ④ 静脈内投与では前回増量時から30分以上,内服薬では最終投与から1時間以上経過している
 ⑤ 最大投与量に達していない
子宮収縮薬の減量および中止について
2. 子宮収縮薬投与中に胎児機能不全あるいはtachysystoleが出現した場合には,産婦の状態を確認して必要に応じた対応を行い,さらにAnswer 3あるいは4を実行する.(B)
3. 静脈内投与中に胎児機能不全あるいはtachysystoleが出現した場合には,減量(1/2以下量への)あるいは中止を検討する.(B)
4. プロスタグランジンE2錠内服中に胎児機能不全あるいはtachysystoleが出現したら,以後は投薬しない.(B)
5. 胎児機能不全出現時の検討内容を診療録に記載する.(B)
6. 産婦が異常に強い痛みを訴えた場合は,産婦の状態を確認して必要に応じた対応を行い,減量・投与中止を検討する.(C)