7.共著者の範囲と謝辞
論文を書いていて、初心者(同時に立場の弱い医局員であることが多い)が悩むのが誰を共著者に入れるかである。産婦人科を含む臨床の雑誌、特に商業誌では医局員あるいは研究グループの構成員全てを載せている論文があるが、無関係な著者を載せることは一種の科学不正である。先進国の学会誌の多くが加盟しているInternational Committee of Medical Journal Editors:ICMJE (生物医学雑誌への統一投稿規程)では,著者は,内容に対して責任を負うに足りる十分な寄与をしている者であり, (1)研究の着想やデザイン,またはデータの取得,またはデータの分析と解釈(2)論文の執筆,あるいは原稿内容への重要な知的改訂(3)出版原稿への最終的な同意 を満たすものでなければならないとしている。つまり、原稿の閲読や助言をしただけ、研究助成金を提供しただけでは,著者になることはできない。ましてや、診療部門の上司であるとか同じ研究班であっても直接かかわっていない場合は共著者に入れるべきではない。1985年にこの規定の初版が出たときには、「データの取得(acquisition of data)」は 著者要件ではなかったがその後の改定で著者の資格とみなされるようになった。一方では「データ収集(collection of data)」は謝辞に入れるべきとされている。すなわちデータを得るときの知的関与、研究目的を十分に理解しているかどうか、論文内容について第三者に説明を求められたとき十分に説明できるかが問われているのである。いくつかの学会誌では著者の貢献(contribution)を明記するようになっており、積極的関与を証明でない場合は共著者になりえない。
共著者名における論文不正の代表が”guest authorshipとghost authorshipである。
前者は研究に貢献していないのに名前だけを載せること、後者は逆に研究に貢献した人の名前を載せないことである。日本では(外国でも)主任教授や医長、部長が必ず最後に名を載せる習慣があるが内容を十分に理解し、論文作成に関与していない場合は載せるべきではない。私事ながら、十数年前、筆者の医局に赴任してきた某主任教授に、その前からずっと筆者が雑誌に連載していた医学史エッセイまで無条件に名を入れるように要求され馬鹿馬鹿しくなって職場を移ったことがある。研究室の先輩でもあり、共同研究論文には当然のように名前を載せていただけに残念である。その後、古巣の研究室からはほとんど論文が出なくなったが、部下につまらない要求をすると自分が損をする典型だと思う。
さて、共著者の範囲をどこまで広げるかは、各ジャーナルの投稿規定に明記されていることが多いので、投稿前に確認する必要がある。雑誌によっては無条件に10名までと決めているものもあれば、多施設共同研究であれば無制限というものもある。いずれにせよ、重要なことは自分の業績になるのは筆頭著者か連絡著者corresponding authorのみでそれ以外の著者は業績としてあまり威張ることはできない。最近では第一著者と第二著者が同じくらい重要な役割を果たした(equally contributed)とするものや数学の雑誌などでは4人の著者が全て同じ貢献をしたなどとするものもある。学問分野ごとに違った文化があることを痛感するが、医学生物学では、First authorかcorresponding authorのみが重要である。さらに、学位申請をする場合は、たとえ大学が違っても一つの論文は一人の主論文にしかなりえないので、投稿の時点で十分協議しておく。著者に入れないがお世話になった場合は謝辞acknowledgementsにその名を入れる。具体的には、議論を通じて論文の完成度を高めるようなアイデアをくれた人、技術的に協力してくれた人、機械や設備を提供してくれた人、大型研究の場合これをまとめた研究プロジェクトリーダーなどである。投稿からアクセプトまで指導してくれた査読者やEditorにも感謝したいが、通常は入れない。研究上の業務委託(膨大なデータ解析や遺伝子シークエンスなど)、英文校正などで検査会社や英文校閲会社の世話になることも多いが、報酬を払っていれば載せる必要はない。但し、データの再現性の点から、委託解析の場合はどこに依頼したかをMaterials and methodsに記載する。完全な臨床論文以外では実験や解析に研究費がかかる。この場合、特に科研費やAMEDなどの公的研究費を用いたときにはどの種目の何という研究費かを明記する。(課題番号も確認)これがないと研究費の成果報告書に書けないので忘れないようにする。なお、科研費や様々な財団からの研究費には必ず英語の正式名があるので、これを確認して記載する。