7.質問!「HRTを本当にいつまでも続けてよいですか?」

 本連載を始めて半年以上が経ち、読まれている先生方から、ちらほらコメントを頂けるようになりました。大変ありがたいことですが、実は批判で「炎上」しないか常々ビビりながら原稿提出をしています。

 さて、今回は地元に戻られた知人の先生から本題のような質問をいただきました。学会発表や講演等で、知らない先生から質問事項だけに即答するとしたら、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版の序文通り、現在ではHRTの投与継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」とするでしょう。

 しかし、質問された先生は、自身のおかれている診療状況も細やかに教えていただきました。そこで、今回も学術団体のようなEBM最重視の立場ではなく、実診療における様々な事情に配慮した理解しやすい内容を心がけて私見を記述しました。もちろん、本連載は日本産婦人科医会ホームページ内に掲載されていますので、なるべく独善的な個人ブログのようにはならない努力をしているつもりです。

 では、何が問題になっているかというと、診療現場でのHRT長期処方の実態(考え方)が2極化していることです。

 それは背景として、日本は欧米と比較して相対的に科学的見地を重視しないメディアや国民性の文化のもと、HRTが実際以上に「危ないホルモン薬」として風評被害に遭ってきたことで、多くの医師が誤解して更年期障害の治療機会を遠ざけたり、必要以上に短期で切り上げたりしてしまうケースが現在も後を絶ちません。
 このような経緯から、ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版の序文には、「初版ガイドライン作成の段階から、HRTには①エストロゲン欠乏に起因する症状の緩和や疾患の治療を目的に使用される場合、②エストロゲン欠落に伴う諸疾患のリスク低下やヘルスケアを目的に使用する場合…」と、長期投与に関しては日本独自の立場を取ることが言及されており、ガイドラインを作成された先生方の苦労が窺えます。
 反対に、「天然」、「植物由来」とか「アンチエイジング」のようなイメージの良い言葉に踊らされて科学的根拠に乏しい民間療法にはまったり、治療当初に著効もしくは減量・中止に失敗したからとHRTを盲信して長期処方を要求したりする患者側にも問題があります。

 まず、「しなさ過ぎ」で頻繁に遭遇する具体的問題例を挙げてみます。

・前医、他医での長期処方を、いきなり強引に止めさせる
 後述するように適応も曖昧で漫然と長期投与している問題処方例は多いのですが、不適切でおかしいからと片っ端から全例即刻止めるよう説得する対応も、HRTの様々な有害事象に関する絶対リスク上昇の程度を正確に理解していない点では勉強不足といえます。
 これらのリスク上昇の程度について具体的な弊害としてイメージするのが困難であれば、例を挙げるとすると、HRTにより静脈血栓塞栓症の発症リスクはHRTをしていない閉経後女性と比較して他の有害事象よりも明らかに増加しますが、OC・LEP製剤と違い周術期の投与禁忌薬剤(予定手術前後の休薬対象)にもなっていません。
 また、すぐにでも長期投与を止めさせてもよい適応を挙げるとしたら、その時点で有害事象の「発症または発症を強く疑う」症例に限ります。そうでない多くの場合では、まずある程度の信頼関係をつくってから十分にメリット・デメリットを説明し、暑くない時期に徐々に減量することを提案しても危険で遅過ぎることはありません。それでも心配なら、「時期をみて漸減の方針」をカルテに記録しておきましょう。

もう一方の、「処方しっ放し」問題処方例も産婦人科に限らず頻繁に遭遇します。

・毎年、検診だけやって、問診・評価をしない

 定期的に乳がん検診等やっているだけでも「かなりマシ」と個人的には思いますが、患者さんが要求または自己中断しない限り、全てのHRT処方例が長期処方となることはお勧めしません。
 やはり、治療薬としてはホルモン剤に限らず「必要最少量と最短期間」処方することが大原則ですので、HRT臨床研究上での設定となった5年間とか60歳以上とかにこだわらず、毎年涼しい時期になったら再評価して継続か減量を検討する、のが実際的です。
 同様に、長期処方において癌(乳癌、卵巣癌、子宮頸部腺癌等)発症リスクとHRT施行期間との関連から「いつまでだったら大丈夫」という考え方は適切とはいえませんが、いずれもリスク増加の程度は他のメリットとの比較検討が可能なレベルと考えられます。

 ホットフラッシュ自体、QOL上はともかく健康上は有害な病態とはいえませんし、約8割は2年以内に自然軽快しますが、閉経後10年以上経過しても軽快しない・生涯持続するケースも稀ではなく無視できません。上述の①が目的なら、HRTが第一選択でも全く問題なく、症状軽快傾向なら慌てず時期(気温は症状再燃に影響します)を吟味して減量・中止を試みましょう。
 上述の②が目的で処方する場合は、中~上級者向けです。HRTが第一選択とはいえないケースが大半を占めますので、慎重な適用のもと特に安易な長期処方継続は控えるべきです。
 巷でみられる「安易な」長期処方の具体例として、降圧・脂質異常治療・骨粗鬆症治療剤等が見受けられます。いずれも医師が処方する治療薬ではありますが、副作用が比較的問題化しないだけでなく、実質は生涯にわたる疾病予防目的として必要とする点で、HRTとは一線を画します。
 同様に、HRTと同成分かつ高用量であるOC・LEPは、40歳以上で慎重投与となるものの有経期間は治療目的の上では必要となりますので、長期処方が成り立つのです。

 すなわち、HRT長期処方においては、治療必要期間の評価が単純ではありませんので、年1回程度は定期的な検診に加えて、思慮深い問診による患者とのコミュニケーションが重要となります。