序
内閣府によると中高年層とは 40~59 歳の者で,高年齢層とは 60 歳以上の者を指すとされている.中高年の女性は婦人科的な愁訴が現れやすいばかりでなく,Silent killer と称される悪性疾患が増加し,良性・悪性を問わず,外来管理ならびに婦人科手術対象となる主たる年齢層である.
私が産婦人科医となった時代には,下部尿路症状を含めた閉経関連泌尿生殖器症候群(GMS)という疾患概念や骨盤臓器脱に対するロボット支援手術等の治療法はなかった.また,以前の研修ノートでも取り上げていたが,もっとも多くの中高年が経験する疾患といって過言ではない子宮筋腫においては FIGOが新規分類を提唱したり,異常子宮出血の原因別分類法として PALM-COEIN分類が登場したりと日々知見がアップデートされている.そして,本書では割愛しておりますが,フェムテックという医療と工学が融合した新規の分野が近年注目されている.このように,中高年女性にかかわるヘルスケア環境はゆっくりではありますが着実に進歩している.
各論1では,各疾患の症候論や対応,なかなか学ぶことのできないホルモン補充療法の具体的なプロトコルやその留意点について記した.各論2では,中高年女性の診療においては,他の診療科との連携が肝要となることから,他の診療科とのオーバーラップする領域の症候論を記載した.限られた紙面の中で,重要事項を可能な限り簡潔にまとめている.本研修ノートが会員諸氏の日々の診療の一助となれば幸甚である.
最後に,貴重な時間を割いて執筆にあたって頂いた諸先生方には深甚なる謝意を示したい.また,執筆・編集・校正などにあたって頂いた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝いたします.
令和7年3月
会長 石 渡 勇