(2)骨代謝などの健康について

1 )疲労骨折

・ 整形外科で疲労骨折と診断されたことを契機に婦人科受診を勧められるケースが多いと思われる.受診時点でのやせも問題であるが,疲労骨折を繰り返し起こす場合,骨強度が獲得できていない,成長障害が予後に関係する.
・ 成長に関しては身長,体重の成長曲線が平成 28 年度から義務付けられている.これに加えて 1 年に何㎝身長が伸びたかをみる成長率曲線(図31)が診断に有用である.

・ 女子の場合,平均 11 歳で年間 8 ㎝前後身長が伸びる「成長ピーク」を伴う「成長スパート」がなく,年間 5 ~  6 ㎝の小学校低学年レベルの身長の伸びのままだとメカニカルストレスが増えず,骨強度が得られない.初経前の激しい運動によってやせてエストラジオールが低いままが問題とされてきたが,エストラジオール投与は骨端線の閉鎖にかかわるのみで易骨折性の改善がはかられるものではない.
・ 骨に関して他の栄養素も推奨レベルが提示されている.カルシウムは1,300㎎,ビタミンD は400 単位と食事から摂取するには困難な量が推奨されている.牛乳換算で1,300mL,アルファロール換算10μg( 1 錠 1μgなので 10 錠)のレベルで,サプリメントでの摂取を禁止するのは現実的ではない.

疲労骨折について
MRI で重症度が判定される.レントゲンで骨折線が確認された場合は既に癒合不可能なレベルとされる.MRI で高信号が確認された段階で疲労骨折「軽度」(この段階であれば,安静・治療により治癒可能)と診断される.まだ骨折が生じていない骨折が差し迫った「切迫」疲労骨折で骨折と呼ばれている.

2 )女性アスリートの貧血

・ RED-S では「貧血」という表現型が最も多くみられる.
・ ヘモグロビンは小学校中学年までは男女とも同レベルであるが,男子では急激に増加する.この増加はテストステロンの蛋白同化が関与してテストステロン増加の対数カーブと類似する.
・ 月経や汗などによって失われる鉄の増加もあるが,テストステロンが低く,造血のレベルが低いことに加えて,溶血によって生じた遊離ヘモグロビンの回収に必要なハプトグロビンの合成に時間を要する.摂取される鉄に対して 24 倍多いとされる遊離ヘモグロビン鉄の回収が低下するため,いったん貧血になると回復に時間がかかる.女子のヘモグロビンはマイナス 2 標準偏差の11.5g/dL 以下は明らかな貧血と判断されるが,平均の13.2g/dL は小学校低学年の男子と同じレベルであるため,平均以下はアスリートとしては貧血と判断されるレベルで,RED-S と判断すべきと考える.

フェリチンに関して
貯蔵鉄を表し,同様に男子では年齢とともに増加する.低値は鉄欠乏を意味するが,急性蛋白で感染や炎症が生じた場合に増加する.循環血液中の遊離鉄濃度が高いと細菌感染を生じやすいため,急速に回収する.マラソンなど持続的な溶血が生じるスポーツを行った直後,運動直後では通常の 10 倍以上にまで増加していたことが報告されている.
(※この文献ではフェリチン上昇は鉄剤注射によるものと考察され,フェジン40㎎を 1 週間続けた結果とされているが,仮に280㎎とした場合,鉄8~10㎎がフェリチン1ng/mL の増加になるのでフェリチンが28~35ng/mL の増加にしかならない)(※女性アスリートに鉄剤注射しても貧血が改善しないのはフェリチンへの急速な鉄の取り込みが生じ,造血に回らないため,ヘモグロビンが増加しないためである)