(2)Adenomyosis:子宮腺筋症

ポイント

  • 子宮筋腫との鑑別および子宮内膜癌の有無の評価は重要である.
  • 重症貧血,血栓症を認めるAUB に対しては緊急対応が必要である.
  • ジエノゲスト,LNG-IUS,GnRH 作動薬による保存療法や,手術療法を行う.

1 )子宮腺筋症の病態

  • 子宮腺筋症は「子宮内膜類似の腺上皮および間質組織,反応性の繊維組織が子宮筋層内に発生し子宮筋層が肥厚する疾患」と定義されるエストロゲン依存性疾患である.
  • 子宮腺筋症による子宮内膜の変形・拡張,子宮収縮のアンバランス化などにより過多月経,不正性器出血,月経困難症状を引き起こす疾患であり,AUB が主な症状であるといえる.
  • 子宮腺筋症の患者のうち40 歳未満の患者は2割程度で,8割は40~50 代の患者であるとする報告や,子宮腺筋症の診断年齢は平均38.2 歳とする報告があり,子宮内膜症と比較し患者の年齢層は高い.

2 )子宮腺筋症によるAUB の診断

①問診

  • AUB や月経困難症状についてよく問診する.この際に他覚的なスケールとしてVAS(Visual Analog Scale)やPBAC(Pictorial Blood Loss Assessment Chart)スコアを用いることは治療効果を判定する際にも有用である.患者の背景として経産回数や既往手術歴,子宮内膜症や子宮筋腫の診断歴を聴取する.また,将来を含めた挙児希望を確認することは治療方針の決定に当たっても重要である.

②血液検査

  • 過多月経による貧血を伴うことがあるため,血液学的検査で鉄欠乏性貧血の有無を確認する.凝固の異常を来す症例もあるため凝固線溶系の評価も行う.

③超音波検査

  • 子宮壁の肥厚の程度やjunctional zone が保たれているかを評価する.典型的には肥厚した子宮筋層に低輝度領域と高輝度領域が混在してみえる.子宮が腫大する疾患として子宮筋腫との鑑別が重要である.子宮腺筋症においては病変の辺縁が不鮮明であること,子宮筋腫でみられる石灰化や周辺の血管像がみられないことが鑑別点として挙げられる.特にType Ⅲ(孤発性)の子宮腺筋症では子宮筋腫と誤認され診断が遅れることがあるため注意が必要である.

④ MRI 検査

  • MRI 検査は感度や特異度,正診率が超音波検査より高く,有用な診断ツールである.
  • 不均一に肥厚した子宮筋層像,junctional zone の肥厚,T1 強調画像およびT2 強調画像いずれにおいても子宮筋層内に点在する小円状の高信号域がみられる.子宮内膜症の合併,特にダグラス窩病変の評価においても有用である.Kishi ら1)はMRI 画像上の子宮腺筋症の局在によりsubtype Ⅰ~Ⅳの子宮腺筋症分類(表10)を提唱しており,分類に当てはめて子宮腺筋症の臨床像を把握することは子宮腺筋症の取り扱いに有用である.

3 )子宮腺筋症によるAUB の対応法

  • 子宮腺筋症によるAUB の対応法について図12 のフローチャートにまとめた.

  • 重症貧血,血栓症を認めるAUB に対しては緊急対応が必要である.
  • まずヘモグロビン(Hb)値の測定を行い鉄欠乏性貧血の程度を評価する.子宮腺筋症のAUB には凝固線溶異常がかかわっている可能性が指摘されており,特に診察時に大量出血を認める症例では血栓症の存在を考え,症状の問診とD dimer の測定を行う.Hb 値4~6g/dL 程度,または心不全症状を伴う症例では赤血球輸血が必要となる可能性が高い.また,血栓症が疑われる場合には造影CT 検査や心臓超音波検査による評価を行った上で抗血栓療法を行う.
  • 緊急対応を要するAUB や血栓症を認める子宮腺筋症においては,それらの治療と同時に出血を止めるためにGnRH 作動薬の投与を行う.GnRH agonist に比して,フレアアップ効果のない GnRH antagonis(t レルゴリクス)はより安全に管理が可能であるという報告もあるが,保険適用のないことに留意する.子宮温存希望がない場合には子宮全摘術などの手術療法は根治性に優れる.子宮温存希望がある症例では後述するジエノゲストやレボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)での管理を試みることも可能である.
  • 緊急対応を要するAUB が否定された場合には挙児希望について確認をし,現時点で挙児希望がない症例ではジエノゲストやLNG-IUS による管理を行う.
  • ジエノゲストは,第4世代のプロゲスチン製剤であり過多月経,月経困難症,慢性痛に対し有効とされる.しかし,子宮腺筋症患者においては異常子宮出血の頻度が高く,Hirata ら2)の報告によれば22.2%の症例で重症貧血を認めており注意が必要である.
  • LNG-IUS は,第2世代のプロゲスチン製剤(レボノルゲストレル)を付加した子宮腔内装置器具であり,装着により5年間レボノルゲストレルが子宮内腔に放出され,子宮内膜を萎縮させ過多月経に有効とされる.子宮腺筋症により子宮が著明に肥大した症例では自然脱落してしまうことがある.
  • ジエノゲストやLNG-IUS による管理中にもAUB の程度には常に注意が必要であり,AUB を認めた際にはフローチャートの初めに戻り再評価する必要がある.緊急対応を要さないAUB ではGnRH 作動薬をこれらの治療と組み合わせることはAUBの軽減に有用である.
    しかし,ジエノゲストやLNG-IUS によっても管理困難な場合には手術療法が検討される.
  • 子宮腺筋症によるAUB と考えられる場合においても子宮内膜細胞診を定期的に行い,悪性疾患の否定をすることは子宮腺筋症の適切な管理において重要である.

 

文献

1) Kishi Y, et al. Four subtypes of adenomyosis assessed by magnetic resonance imaging and their specification. Am J Obstet Gynecol. 207(2): 114.e1-7, 2012
2) Hirata T, et al. Efficacy of dienogest in the treatment of symptomatic adenomyosis: a pilot study. Gynecol Endocrinol. 30(10): 726-729, 2014