(3)中高年女性によく見られる症状と疾患
閉経(平均 50 歳前後)を境に,卵巣機能が著しく低下し,エストロゲンの分泌が急激に減少する結果,以下のような全身的な影響が現れる.
1 )更年期症状
エストロゲンの減少に伴う自律神経系および中枢神経系の影響が顕著であり,以下のような症状が見られる.
- ホットフラッシュ
突然の顔面紅潮や発汗が特徴で,これが繰り返し起こることにより,睡眠障害や心理的ストレスが生じる. - 不眠
睡眠リズムの乱れ,夜間の発汗,心理的要因が複合的に影響を与える. - 倦怠感,集中力の低下
日中の活動に支障を来し,仕事や家庭生活に影響を与える. - 心理的症状
イライラ,不安感,気分の変動が見られる.放置すると抑うつ状態に進展する可能性がある.
2 )骨粗鬆症
骨密度の低下により,骨折リスクが高まる.特に大腿骨頸部や腰椎,橈骨遠位部の骨折が多く見られ,骨折後のリハビリテーションが不十分な場合には,寝たきりになるリスクも高まる.
3 )心血管疾患
閉経後,エストロゲンによる血管保護作用が失われるため,動脈硬化の進行が加速する.これにより,高血圧,冠動脈疾患,脳卒中のリスクが増加する.
4 )代謝性疾患
- メタボリックシンドローム
内臓脂肪の蓄積,血糖値上昇,脂質異常,高血圧が複合的に発現する. - 糖尿病
インスリン抵抗性が増加することで発症リスクが上昇する.
5 )泌尿生殖器症状
- 腟萎縮症
性交痛や腟の乾燥感,腟炎が頻発する. - 尿失禁
骨盤底筋の衰えが主因であり,生活の質を著しく低下させる. - 尿路感染症
免疫機能の低下や尿路上皮の萎縮により再発しやすい.
6 )精神疾患
抑うつ障害,適応障害,不安障害が多く見られる.心理的ストレスや社会的孤立が誘因となる場合が多い.
7 )がん
乳がん,子宮体がん,卵巣がんの発症リスクが加齢とともに変化する.これらのがんに対して定期的なスクリーニングが重要である.