1.防災マニュアル(表 3)
1.防災マニュアルを作成する目的
使い古された言葉だが,やはり天災は忘れた頃にやってくる.経験したことのない状況に遭遇した人の多くはパニックに陥って冷静な判断ができなくなり,平常心では考えられないような行動が二次災害を招くおそれもある.災害発生時のマニュアルはこのような事態を防ぐために必要である.防災マニュアルの目的は,万一の事態が発生した際の,①最適な対処法を明確にする.②各人員の行動指針や役割分担を明確にする.の2点により人命や資産を守ることである.
2.防災マニュアルの構成
東日本大震災以降,様々な防災マニュアル作成の手引きが出版あるいはweb上で公開されている.周産期領域に特化したものとしては2021年に公開された厚生労働行政推進調査研究事業「災害後の中長期的な母子保健対策マニュアル」や日本看護協会が2013年に出版した「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」があり,いずれも無償でダウンロードできる.マニュアルに盛り込むべき項目は以下の4つとされる.
①役割分担
災害時に設立する対策本部における人員体制と各人員の役割を決めておく.総合病院の場合は病院全体としての対策本部に加えて産科病棟・母子センター内でも独自の対策本部を設置し,周産期医療の特殊性を考慮した対応を行う.災害発生時には担当者も被災して所定の役割を果たすことができない可能性もあり,それぞれの代行者を決めておく.
②情報収集
災害発生時の情報収集は職員および外来・入院患者の安全確保を実現するために重要である.収集すべき情報としては,ⅰ)災害状況 ⅱ)通信手段 ⅲ)職員・患者の安否 ⅳ)交通機関や道路の状況 ⅴ)近隣の周産期医療機関の稼働状況などがある.だれがどの情報を収集するかは役割分担に明記し,あらゆる時間帯に対応できるようにしておく.災害発生時の通信障害に備えて,複数の通信手段(例:電話とSNSなど)を確保しておくことが求められる.災害の全体像を把握するには広域災害救急医療情報システム(EMIS, https://www.wds.emis.go.jp)の活用や災害時小児周産期リエゾンからの情報収集も有用である.
③緊急連絡網
勤務に就いていない職員の安否を知り,本部からの指示を行うため,災害時の緊急連絡網を構築しておく.連絡先は常に新しいものに更新し,定期的に連絡網を利用した訓練を行う.
④避難体制
避難が必要となる場合に備えて医療機関の近くに避難場所を設定し,複数の避難経路を想定する.災害の種類によって異なる避難経路や避難場所が必要となる可能性がある.また避難時には二次災害を防ぐために初期消火や防災シャッターなどの防災設備を適切に作動させる必要があり,これも定期的な訓練によって動作確認と周知を図る.
3.アクションカード(優先行動規定カード)の作成(図 27)
アクションカードとは,災害発生時に最低限必要な行動を簡単かつ具体的に示したものである.各役割別・災害の種類別・災害規模別・被害状況別に複数種類を準備しておき,緊急時にスタッフやボランティアに配布される.カードはポケットに入る大きさでチェックリスト形式がよい.災害発生時にすぐ持ち出せるよう,保管場所を決めてスタッフに周知しておく.