3.受傷妊婦への対応
1 .受傷妊婦のトリアージ
・妊婦の被災は本人のみではなく胎児の安全をも脅かす.災害現場での一次トリアージで汎用される Simple Triage And Rapid Treatmen(t START)法の変法では,女性要救護者の妊娠の有無確認の具体的手順は示されていない.
・児の生命を脅かす危機が迫っていても,母体は正常バイタルで歩行可能のことがあり,緑タグ(第3優先)に区分されてしまう.そのため,妊娠が確認された女性は黄タグ(第2優先)とすべきで,さらに破水,腹痛,性器出血,胎児死亡のいずれかの異常を認めれば,緊急治療が必要な「赤タグ」に分類する(産婦人科診療ガイドライン 産科編 2020「CQ902 大規模災害や事故に遭遇した女性の救護は?」より引用)(表4,5).
2 .受傷妊婦の評価
・妊婦が受傷した場合は,腹部に直接の外傷がない場合でも,しりもちや転倒の刺激でも子宮収縮が生じ,外傷性の胎盤早期剝離などを来し得る.一般的な外傷の評価のみではなく,母児ともに生命の危機に直結する産科病態の有無も評価する.評価時には,仰臥位を避けて身体を左側に15~30度傾ける,もしくは用手的に子宮を左方に圧排して,仰臥位低血圧症候群を予防する(図32).
妊婦の受傷時の初期評価としては,まずA(気道開通),B(呼吸),C(循環),D(中枢神経,意識状態)の確認と,安定化を図る.
さらに妊婦特有のEとFの評価をする.特にEでは内診が含まれるため,プライバシーを確保し,同意を得てから行う.
E:外表診察:体温計測と脱衣による会陰も含む外表観察をする.活動性の出血はないか(あれば圧迫止血をする),腹部は硬くないか,腹痛はないか.性器出血はしていないか.外傷性の常位胎盤早期剝離や子宮破裂のリスクを評価する.
F:胎児の評価:心拍の確認.電池式の胎児心音計やポータブルエコーで胎児心音を確認し,徐脈の有無を判断する.
上記のいずれかに異常があれば高次施設への搬送が望ましい.
上記のいずれも異常なければ局所的な負傷部位の治療にあたる.
感染予防目的に抗菌薬を使用する.屋外での負傷の場合は,破傷風ワクチンの投与が勧められる.その他の治療に必要な薬剤も,母体生命優先で使用する.妊娠中の解熱鎮痛薬は,アセトアミノフェンを用いる方がよい.