(4)子宮破裂

・母児ともに重篤な状態に陥る疾患である子宮破裂は,比較的稀である.
・一般的に子宮筋層を縦断した手術瘢痕を有する瘢痕子宮が妊娠中に破裂することが多いが非瘢痕子宮の破裂も稀ながら,増加傾向にあると言われている 1).

1)頻度

・非瘢痕子宮での発症頻度は,0.7~5.1/10,000分娩で,全子宮破裂の13% 2).
・瘢痕子宮では,分娩様式にかかわらず0.3%の頻度で,TOLACでは0.5% 3).

2)危険因子

・非瘢痕子宮と瘢痕子宮で,報告されている危険因子を示す(表12).
・非瘢痕子宮の危険因子は,複数存在し,その予測は困難である.
多産婦は,既往の分娩時にいくつかの要因による不顕性の子宮筋層への損傷が発症する可能性が高まるため,危険度が上昇すると言われている 1)
.子宮収縮剤投与も対象症例の分娩回数や高・低濃度投与法,複数薬物の併用など,いくつかの組み合わせによる危険度が報告されている4).
・瘢痕子宮は,既往帝王切開術の子宮切開創の部位で,危険度に違いが生じる.一般的に子宮体部縦切開(古典的),逆T字切開,子宮底部の切開は,下部横切開術に比し危険度が10倍高くなる 5).TOLACを行う場合,前回切開創や既往分娩時異常の有無を事前に確認し,その可否を判断する.

3)分類

①完全子宮破裂:子宮内膜,筋層,臓側腹膜のすべてが破断している状態
②不完全子宮破裂:子宮内膜,筋層は破断してるが臓側腹膜は保たれている.
前回の子宮筋層切開創の瘢痕が,離開菲薄化したuterine dehiscenceは,無症状の反復帝王切開時にしばしば確認することがあり,狭義の不完全子宮破裂とは区別することがある.

4)臨床症状

・種々の条件でその臨床症状も多彩な様相を呈する.
・破裂の可能性を認識していなければ,非特異的な症状のため,開腹後にその存在を認識することになる.
・非瘢痕子宮か瘢痕子宮か,破裂部位,合併損傷臓器(血管,膀胱など),出血の進展方向(腟内,腹腔内,後腹膜腔),分娩時期(I~III期),分娩中の和痛処置などの関
与で症状が異なる.
・突然のバイタルサインの悪化,外出血の増加,陣痛消失などを呈すると言われているが,特徴的なものはなく,分娩前の胎児心拍異常が最も初期のサインとされている(表13)6).

5 )診 断

・分娩前では,胎児心拍数異常のため緊急帝王切開術を施行し,破裂部位,腹腔内出血の確認をすることがほとんどである.特に非瘢痕子宮は,子宮破裂の可能性を積極的に疑わなければ,その診断は難しい.
・分娩後は,子宮下部の破裂が頸管,円蓋部に及べば外出血として,膀胱損傷を合併していれば血尿などを契機に破裂の可能性を想起することがある.また,治療に反応しない母体循環不安定に対する骨盤内の画像診断や止血目的に開腹の所見で判明する.
・瘢痕子宮は,TOLACを施行中であれば,常に破裂の可能性を念頭に管理しなければならない.

6)鑑別診断

・分娩前は,常位胎盤早期剝離,腹腔内出血を来す疾患(妊娠中の脾破裂,HELLP症候群に合併する肝破裂など)があり,分娩後は,弛緩出血,軟産道の裂傷,凝固障害などがある.
・子宮破裂は常位胎盤早期剝離と同様に,急性発症の腹痛,外出血,胎児心拍異常を呈することから,帝王切開術前に両者を鑑別することは,難しい(表14).

7)画像診断

・子宮破裂のリスク予測としての既往帝王切開術の子宮下部瘢痕部の超音波による評価は,確立していない 7,8,9).
・胎児心拍数異常と急性腹症,循環動態不安定のため緊急開腹術後に判明することが多いが,開腹前に子宮傍組織に血腫を確認したり,腹腔内出血を超音波,いわゆる外傷患者の評価に用いるFAST(Focused Assessment with Sonography in Trauma)(註)を行うことで診断できることがある.
・分娩後は,腹部超音波による腹腔内出血,腹部CTなどで子宮筋層の不連続性や腹腔内,後腹膜血腫の存在で破裂を疑う(図27,28).
註)FASTは外傷患者において体腔内のエコーフリースペースを探して出血の有無を検索する迅速簡易超音波検査法.心囊腔,腹腔および胸腔をみる.順番は心膜腔⇒モリソン窩⇒右胸腔⇒脾周囲⇒左胸腔⇒ダグラス窩.患者は仰臥位のままで実施.最初に異常がみられなくても,時間をおいて反復して施行することが重要である.


8)治療・管理

・治療の基本は,子宮破裂が認知されているか否かにかかわらず,胎児心拍数異常に対する緊急帝王切開術を施行するために(しながら),母体循環動態の改善を可及的速やかに開始する.術前,術中に補液,輸血,血液製剤の投与を強力に推し進める.麻酔は,緊急性とその後に発症する凝固障害による区域麻酔の硬膜,脊椎血腫を考慮し,全身麻酔を選択することが多い.皮切は,破裂部位,合併損傷臓器の確認や産褥子宮の手術操作を容易に行うため,縦切開を選択する.
・分娩前であれば,児を娩出し,胎盤を剝離除去するが,破裂部位からの部分的な脱出であれば,破裂部位の血管を避けて延長するか,通常の下部横切開に準じる手技を行い娩出させる.

9)破裂部位の縫合止血,修復

・破裂部筋層からの出血以外の弛緩出血,子宮血管破断などの合併に対し,子宮収縮薬,子宮圧迫縫合,血管縫合止血法,子宮腔内バルーン圧迫などを併用する.
・止血や循環動態がコントロール可能であれば,破裂部位を閉鎖する.
・しかし,破裂の部位や損傷が広範で破裂創長が大きい場合,また修復に要する間の全身状態の管理状況や修復痕が次回妊娠に及ぼす影響を考慮して修復するか否かを決定しなければならない.
・破裂部位の修復は,通常の帝王切開術時で行う吸収糸での筋層縫合閉鎖の手技に準じる.

10)子宮摘出術

・破裂子宮の損傷部位とその程度,温存子宮の止血コントロールが可能か否か,合併損傷臓器の程度,患者の全身状態,術者の力量,患者の挙児希望の有無などの複合的要素を判断し決断する.
・非瘢痕子宮の完全破裂は,一般的に子宮摘出を選択することが多い.
・腟壁・頸管裂傷を伴わない子宮破裂は,腟上部摘出術で対応可能だが,子宮下部の裂傷が腟管まで及ぶ場合は,全摘術後に腹腔内と経腟的に双方向から,止血縫合を行うことがある.

11)合併損傷臓器の修復

・瘢痕子宮破裂では,既往帝王切開術の瘢痕部と膀胱壁が近接するため,膀胱損傷を合併することがある.
・非瘢痕子宮の破裂は,子宮体部側壁から下部側壁へかけて裂創が存在することが多く,その下端は,膀胱尿管移行部,子宮頸管,円蓋部,腟壁に及ぶことがある.
・術前,もしくは術中に経腟的手術操作を容易にするため,開脚位で開腹を行えるようにする.
・膀胱,尿管損傷を合併する場合,泌尿器科の応援を求め修復する.
・その他の臓器損傷も,必要に応じて骨盤外科の経験をもつ外科医の応援を要請する.

12)高次施設搬送のためのダメージコントロール手術

・子宮摘出術を含め,合併損傷の修復術を自施設で遂行不可の判断を下したのであれば,強出血の部位を,血管を避けて,大きめの縫合糸で粗に単結紮を数カ所のみ圧迫止血を行い,ガーゼ圧迫留置を併用後,一時的に閉腹し,血液製剤の投与を行いつつ高次施設へ搬送する.

13)経腟的骨盤内圧迫(Pelvic packing)

・子宮摘出術後の腟断端,傍子宮組織からの静脈性出血が凝固障害のためにコントロールが困難な場合,滅菌ビニール袋で圧迫用ガーゼを包み,その断端部を清潔な子宮テープ(テトロン)などで縛り,経腟的に体外へひもで誘導,その先端を500~1,000ccの輸液バッグをおもりとして結びつけて,牽引圧迫を術後12~24時間,継続することもある.また同様の目的で頸管拡張用のメトロイリンテルを結びつけて同様に牽引圧迫することもある(図29).

14)外傷による子宮破裂

・鈍的外傷並びに穿通性外傷で発症する.
・転落,暴力,交通外傷が誘因となる.
・高エネルギー事故によるものは,母児ともに重篤な状態に陥る.不適切なシートベルト着用や子宮体部への直達する鈍的打撲は,子宮底部の破裂を引き起こすことがあり,同時に上腹部の肝臓,脾臓などの実質臓器損傷を併発することがあるため,開腹時は上腹部の検索を怠らない(図30).

15)予後

・非瘢痕子宮破裂は,瘢痕子宮破裂に比し,母児ともに予後が悪い.
・Case-control 研究では,母体合併症は,非瘢痕子宮破裂発症後では65%,瘢痕子宮破裂発症後では20%に認め,周産期死亡率は,非瘢痕子宮破裂では30%,瘢痕子宮破裂では5~26%だったと報告されている(表15)1).

16)再破裂

・次回妊娠における再破裂のリスクは,報告によって様々であり,厳重な周産期管理と予定帝王切開術を行う 10 , 11 , 12 , 13).
・分娩時期の決定は,子宮のどの部分が破裂をしたかによっても異なる.
①瘢痕子宮の下部横切開部分の破裂後の場合は,胎児の肺成熟を確認し,妊娠36~37週に行うことが多い 14).
②子宮底部の破裂後の場合では,妊娠中期に破裂を来すことがあり,分娩時期の予測は困難である 11).