ポイント
- バイタルサインの継続監視と,外出血量の定期的な観察・計測を行う.
- PUBRAT(表9)などを参照とし,図51 に示す初期対応と治療を行う.
- 図51 の危機的状況となるようならば,高次施設への搬送を考慮する.
- 本稿では,クリニックなど1次分娩機関での帝王切開を想定して,早期発見,初期対応,治療,搬送を考慮すべき基準について述べる.
(1)早期発見
- 早期発見のポイントは「褥婦本人の自覚に頼らない」ことであり,バイタルサイン(心拍数,血圧,酸素飽和度など)の継続監視と,外出血量の定期的な観察・計測を行う.
- バイタルサイン・外出血量ともに,あらかじめドクターコール基準を作成しておくことが望ましい.『母体安全への提言2017』の早期警告サイン= PUBRAT(表9)などを参照して作成する.
(2)初期対応(図51)
- 出血時の初期対応においては,①全身管理,②産科的管理,③保温の3つを同時進行で行う必要がある.
1 )全身管理
- 全身管理の初期対応としては,以下の4つを行う.
人員招集(人)
母体モニタリングの強化と記録(モ)
自動血圧計,心電図モニター,酸素飽和度モニターの3点セットによる継続的監視を行う.
酸素投与(サ)
リザーバー付きマスクで,100%酸素を10~15L/ 分の流量で投与する.酸素飽和度が正常であっても投与する.
静脈ルートからの急速輸液(ル)
細胞外液の急速輸液を行う.
滴下状況を確認し,滴下不良であれば早めに再確保を行う.
以上の4つの初期処置を忘れないために,「人もサル」と覚えるようにしている.
- これらの初期対応は,バイタルサインに変動がなくても行うことが重要である.妊産婦のような健康な若年者においては,ショック状態が進行した後にバイタルサインが変動することがある.
2 )産科的管理
- 弛緩出血を想定して産科的管理を開始する.
- 子宮底マッサージにより子宮収縮を確認し,子宮収縮薬(オキシトシン10 単位,メチルエルゴメトリンマレイン酸塩0.2㎎など)を投与する.
3 )保温
- 低体温は全身状態の悪化につながるので,処置に必要がない部位はできるだけ露出
しないようにしている.冷罨法は原則として行っていない.
(3)治療
- 治療においても全身管理,産科的管理,保温の3点セットが重要である(図51).
1 )全身管理
- 治療中の全身管理としては,A(気道)B(呼吸)C(循環)D(意識)の確認を継続的に行う.どれかに異常がある場合には,産科的管理を中断してでも搬送を検討すべきである.
A(Air Way)=気道
気道狭窄音があれば異常である.
D の確認を兼ねて適宜声かけを行い,発語があれば気道は開通している.
B(Breathing)=呼吸
15 回/ 分以下または25 回/ 分以上は異常である.
心電図モニターによる呼吸回数計測はあてにならないことが多いので,目視による測定を併用する.
C(Circulation)=循環
ショックインデックス(=心拍数/ 収縮期血圧)1.0 以上が継続すればショック状態である.1.0 未満であっても末梢冷感などの循環不全所見に注意する.
D(Disability)=意識
声かけに対する反応が適切であることを確認する.
反応があっても的外れな発語があれば,意識障害であると認識する必要がある.
2 )産科的管理
- 子宮底マッサージおよび子宮収縮薬の投与により止血が得られない場合には,子宮双手圧迫を行う.子宮収縮薬のさらなる投与やトラネキサム酸の早期投与(1g/10mLのアンプルを緩徐に静注)も行う.
- これらの治療で止血が得られない場合には,動脈性の出血など,弛緩出血以外の原因を想定しなければならない.子宮内バルーンタンポナーデ法(Bakri Ⓡ分娩後バルーンまたはアトム子宮止血バルーン)は,あくまでも搬送を前提とした時間稼ぎであると認識すべきである.
3 )保温
- 産科処置中は露出部が多いため低体温になりやすい.引き続き保温に留意し,必要に応じて電気毛布などを適宜使用する.
(4)搬送基準
- 図51 に高次施設への搬送を検討する「危機的状況」を示した.
- 施設条件や地域の状況により異なると考えられるので,事前に自院での搬送基準を検討しておくことが重要である.
- 1 次分娩機関で輸血を行うべきかどうかは地域の状況により異なる.搬送に時間がかかる場合には輸血も考慮されるが,ほとんどの場合には輸血のために時間を浪費するよりは,高次医療機関へ早期に搬送した方が有利であると考える.