40 .子宮内バルーンタンポナーデのコツ
ポイント
- 子宮内バルーンタンポナーデ(IBT)は,弛緩出血に対する簡便な応急止血法である.
- 難治性弛緩出血の多くは一点から動脈性に出血している.
- IBT のコツは出血点を見極めバルーンで直接圧迫することである.
分娩後異常出血は妊産婦死亡の主な原因であり,すべての産婦人科医がその対応を理解し備えておく必要がある.子宮内バルーンタンポナーデ(IBT:intrauterine balloon tamponade)は,国内外のガイドラインでも弛緩出血の初期対応の1つとして推奨される簡便な応急止血法である.さらに出血制御が困難な難治性弛緩出血に対しても,IBTに双手圧迫を併用することで止血が得られる場合がある(図9)1, 2).本稿では,それぞれのポイントについて解説する.
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(1)弛緩出血に対するIBT(従来の使用法)のポイント
バルーンの滑脱を防ぐため,腟内へのガーゼ充填などの工夫を行う.止血効果の判定は15分以内を目安とし,出血が持続する場合は速やかに次の手段へ移行する.
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(2)難治性弛緩出血に対する双手圧迫併用 IBT のポイント
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1)難治性弛緩出血の多くは一点からの動脈性出血
難治性弛緩出血は胎盤剝離面全体ではなく,一点から動脈性に出血していることが多い.この病態はPRACE(Postpartum hemorrhage, Resistance to treatment, and Arterial Contrast Extravasation)と呼ばれ,非PRACEに比べ大量輸血や子宮動脈塞栓術を要するリスクが高い 3).
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2 )IBT のコツは出血点の見極めとバルーンによる直接圧迫止血
難治性弛緩出血では,循環動態を安定させた上で速やかにダイナミックCTを行い,PRACEの有無と出血点を評価する(図9).PRACEは早期相での造影剤血管外漏出(図10a,b)と,後期~平衡相にかけての漏出像拡大が特徴である(図10c).子宮動 脈上・下行枝の分岐の高さより腟側に出血点を認める下部PRACEでは,IBTに双手圧迫を併用することで出血点を直接圧迫でき,止血効果が期待できる(図11)1, 2).一方,上部PRACEでは直接圧迫が困難であり,原則として子宮動脈塞栓や子宮摘出術を選択する 1, 2).


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3)下部PRACEに対する双手圧迫併用IBTの実際
経腹超音波ガイド下に子宮内バルーンを子宮下部へ挿入し,蒸留水を注入する(約300~350mL).次に,左手でバルーン下端を,右手で子宮底を腟口方向へ押し込むようにして出血点を圧迫する(図11).施行時間の目安は約1時間で,適宜止血が得られているかを確認する.筆者は,スタイレット付きで挿入が容易であり,かつドレーンにより出血量を把握できるアトム子宮止血バルーンⓇを使用している.
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4)一次医療機関における双手圧迫併用 IBT の活用
初期対応で止血が得られない場合は,躊躇なく高次医療施設へ搬送することが重要である.その上で,本法は高次施設搬送の際に一次施設や救急車内でも施行可能な応急処置として有用である.超音波断層法で子宮上部の収縮が良好で,血液貯留が下部に限局する所見は,下部PRACEの診断を支持する.
文献
- 1)Kondoh E, et al. CT scan assessment of intrauterine balloon tamponade failure for the treatment of atonic postpartum haemorrhage: implications for treatment. BJOG. 128(11): 1726-1731, 2021
- 2)小寺千聡,他.改めて考える周産期医療における手術の役割,難治性弛緩出血に対する双手圧迫を併用した 子宮内バルーンタンポナーデの有用性.産婦人科手術.34:51-56,2023
- 3)Yamaguchi M, et al. Dynamic computed tomography findings as indicators of uterine artery embolization in postpartum hemorrhage. JAMA Netw Open. 8(5): e2512209, 2025