3.新生児聴覚スクリーニング検査について
(1) 聴覚スクリーニング検査に関する啓蒙、保護者への説明と同意
妊娠中、或いは分娩後の早い時期に、新生児聴覚スクリーニングに関する説明をおこなう。その内容は、発見される聴覚障害の頻度、早期発見・早期支援の重要性、検査の非侵襲性、検査結果が「要再検」時の対応等を含むものとする。特にスクリーニング検査は、精密検査の必要性を判定する為の検査であり、難聴の有無を判定するものではないことを説明する必要がある。同時に、スクリーニング検査の実施および、追跡調査のための登録に関して、文書による同意を得る(資料6. 使用文例「保護者の方へ 1」)。母親学級、両親学級などの機会を利用して予め聴覚スクリーニングに関する説明を行ったり、パンフレットを渡すことも望ましい。
図1. 保護者への啓蒙用リーフレットの例(研究班作成)
(2) 新生児聴覚スクリーニング検査
分娩施設に入院中に、他覚的な検査機器を用いて聴覚スクリーニング検査を実施する。
現在、新生児聴覚簡易検査用に開発されたものに2つの方法がある。
ア. 自動聴性脳幹反応(Automated Auditory Brainstem Response, 自動ABR)(図2)
イ. 耳音響放射(Otoacoustic Emissions, OAE)
(3) 新生児聴覚スクリーニング検査の実施時期
聴覚障害児の早期診断・早期支援を行うためには、早期に検査を行う必要がある。出生病院入院中にスクリーニング検査を実施する理由は、次のとおりである。検査は、児の自然睡眠下あるいは安静時に実施するが、入院中であれば、検査可能な機会を多く得ることが出来る。また、医療機関にいる間が、出生児全員を把握するのには最適であり、検査実施が容易である。
OAEは耳垢や中耳の滲出液に大きく影響される。新生児の場合、出生直後には中耳にまだ液体が貯留していることが多く、これが空気に置き換わるには数時間から数日間を要するので、出生直後は偽陽性率が高くなる。このため、検査実施時期は生後24時間以降が望ましい。しかも、再検査を行う時間的余裕が必要なので、生後2〜4日に初回検査を実施するのが適当である。ただし、NICUに入院している児は在胎36週以降、退院前までに実施する。何らかの事情で、入院中に聴覚検査を実施出来なかった場合は、生後1か月以内に実施する。
(4) 新生児聴覚スクリーニング検査の担当者
新生児についての一般的知識と新生児聴覚検査の意義について理解している者が検査を担当することが望ましく、医師、臨床検査技師、言語聴覚士、助産師、看護師が適任である。検査の担当者は、予め、検査法の原理、検査機器の扱い方、新生児の聴器の解剖や生理などの基礎知識を学んでおく必要がある。
(5) 新生児聴覚スクリーニング検査実施上の注意
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- 自動ABRは授乳後の自然睡眠中が検査しやすい。
OAEは泣いていなければ検査可能である。
- 慣れた検査者が検査する方が、要再検率が低くなるので、検査を担当する人はできるだけ少人数に限定することが望ましい。
- 出生直後は中耳に未だ液体が貯留していることが多いため、検査は、生後1日以降が良い。また、退院までに再検査が出来る日程で行う。
- ベッドサイドでも検査可能であるが、出来るだけ静かな場所で検査を行うことが望ましい。
- 自動ABRは電極の接触抵抗値が上がらないように皮膚の清拭を行った後に赤ちゃんが起きないように優しく電極装着を行う。予め、電極を装着しておき、眠った後に検査することも出来る。
- 6.OAEで検査を行う場合は検査前に外耳道入り口の耳垢を綿棒で除去する。
あまり奥まで綿棒を入れないように注意する。
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検査は授乳後などの新生児が熟睡した状態で実施することが望ましい。覚醒あるいは半覚醒の状態では体動による雑信号が混入しやすく正しい結果が得られにくい。また、検査実施者をある程度限定する方が「要再検」率を低くできる。
自動ABRの電極は接触抵抗が高くならないように、皮膚を清浄後に電極を添付する。雑信号混入を防ぐため、点滴注入ポンプなどの医療機器は同じコンセントボックスから電源を取らない方がよい。
OAEの場合は、睡眠中でなくとも、動いたり泣いていなければ検査は可能であるが、検査のプローブを外耳道内に挿入した時に泣き出すことが多いので、熟睡している時に実施する方が検査は容易である。プローブがはずれると正しい結果が得られない。予め綿棒で外耳道入り口の分泌物をとっておくことも必要である。また、騒音があると検査データに影響するので、検査は、比較的静かな環境で実施することが望ましい。
(6) 新生児聴覚スクリーニング検査の結果とその対応
ア.スクリーニング検査で「パス(pass)」例への対応
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「パス」の場合には、その時点では聴力に異常がないとして良いが、生後の成長過程でおこる、おたふくかぜや中耳炎による聴力障害や、遅発性難聴は新生児スクリーニングでは発見できない。このため、スクリーニング結果が「パス」の場合でも聴覚・言語発達チェックリスト(資料7. 使用文例6. 「赤ちゃんには、お母さんの声が聞こえていますか」)を渡し、聴覚の発達に注意が必要であることを説明する。ハイリスク児の場合は、スクリーニング検査で「パス」の場合も3歳までは定期的に聴覚検査を受けることが望ましい。
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イ.スクリーニング検査で「要再検(refer)」例への対応
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入院中の検査で「要再検」となった場合には、複数回の検査を実施する。この結果、「要再検」である場合には、精密検査機関へ紹介する。OAEで検査を実施した場合は、可能であれば自動ABRにる再検査後、精密検査機関へ紹介することが望ましい。なお、同一日に繰り返し検査するより、翌日以降に検査をする方が「要再検」率は低くなる。検査の場が確保できる場合は、退院後、或いは1か月健診時に再検査を行うことも可能であり、「要再検」率は更に低くなる。
「要再検」とは、もう一度検査の必要があることを示しているもので、直ちに聴覚障害があることを意味するものではない。保護者に対しては、「反応が不十分であるが、偽陽性のこともあり、聴覚障害があるか否かは現時点では不明であるので、聴覚の専門医で、精密検査を受けることが必要」であることを説明する。母一人にではなく、家族が同席した場で、プライバシーに配慮して行う。聴覚検査の結果を紹介状に記載し、日本耳鼻咽喉科学会が指定した精密検査機関(資料2参照)およびフォローアップを担当する小児科医へ紹介する。
「「要再検」例への説明は必ず医師が行うことが必要である。「
「要再検」の結果に不安を持つ保護者へのカウンセリング、児の合併症の有無の診断および発達のフォローアップは、小児科医が行うことが望ましい。保護者の不安が強い場合は小児科医から、所轄保健所・保健センターにも連絡し、保健師の訪問を依頼する。
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ウ.片側「要再検(refer)」例への対応
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片側「要再検(refer)」例の場合、片側であっても聴覚障害の診断が必要である。耳鼻科的な治療の対象となる疾患もある。健側耳の管理が重要となるため、耳鼻科医によるフォローアップが必要とされる。フォローアップ中に両側難聴なった例もあり、症候群性の疾患や他の合併症を伴う疾患などは小児科医への紹介も必要である。
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エ.聴覚スクリーニング検査が実施出来なかった場合
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(ア) 保護者が検査に同意しなかった場合
カルテに記載しておく
(イ) 保護者は検査を希望したが、入院中の検査がもれてしまった場合
生後1か月までの間に、来院させて聴覚検査を行う。
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(参考)聴覚スクリーニング検査の「要再検(refer)」率について
自動ABRの要再検率は片側referも含め、約1%である。OAEの「要再検(refer)」率は、自動ABRよりやや高い。検査回数を増やすことにより、refer率を下げることが可能である。偽陽性率を低くすることにより、保護者の無用な不安や精密検査の数を減らすことが出来るので、出来るだけ要再検率を低くするよう努力する事が必要である。しかし一方、検査の回数を増やすほど、偽陰性率は高くなることも留意する必要がある。
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オ.母子健康手帳への記載
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聴覚検査を実施した医療機関は、その実施年月日、検査法および検査結果を母子健康手帳に記載する。
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(7) 聴覚スクリーニング検査の実績報告
自治体が聴覚スクリーニングを実施した場合、スクリーニング検査機関は、一定期間毎に、出生数、聴覚検査方法、聴覚検査実施数、再検査者数、精密検査への紹介者数、検査非実施数、検査拒否数等を実施主体(都道府県又は指定都市)に報告する。再検査者については、保護者の了解を得て、紹介先精密検査機関および新生児の情報を実施主体に報告する。
(8) 聴覚検査費用の補助
平成19年度からは、国から新生児聴覚検査費用は補助されないが、各自治体に於いて、聴覚スクリーニング検査が実施されるよう配慮が望まれる。
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