平成22年2月
会員各位
社団法人日本産婦人科医会 母子保健部
臍帯血バンクに係わる諸問題
「さい帯血プライベートバンク」の破綻をきっかけに厚生労働大臣は平成21年12月22日の記者会見の中で「さい帯血プライベートバンクについて具体的に調査し、対応を考えていきます」と述べています。
いわゆる「さい帯血プライベートバンク」とは、新生児本人や家族の治療用に有償で臍帯血を保管することを目的とする企業であり、今回破綻したいわゆる「さい帯血プライベートバンク」を含め国内に少なくても4社あり計2万人分を保管しているとされます。臍帯血の保管基準や方法は社によって違い、また「提供者からの金銭の徴収」があること、一部において「臍帯血採取医療機関への金銭の提供」が取り沙汰されることがあること、など、公的臍帯血バンクとは性格を異にしています。
一方、公的臍帯血バンクとは日本さい帯血バンクネットワーク(平成11年8月設立、事務所:日本赤十字社本社構内)に加盟している組織(バンク)のことであり、母親の無償の善意とバンクに認定されている臍帯血採取施設(臍帯血の採取方法などについて、 一定の講習を受けている)の産婦人科医の協力によって臍帯血を保存しています。公的臍帯血バンクは国内に11あり、国の財政支援を得て運営され、一定基準に従って保管しています。公的臍帯血バンクと「さい帯血プライベートバンク」の違いについては日本さい帯血バンクネットワークの2009年7月11日付文書に詳述されています。
日本産婦人科医会では以前より「臍帯血の私的保存に注意」(参照:医会報 平成14年11月号)の中で、「臍帯血の私的保存についてはその実状と背景を十分に理解し、単なる営利に利用されることのないよう慎重な対応が求められる」としてきました。一般に、母親から真摯に臍帯血の採取を請われた場合、産婦人科医は善意で採取することがあると考えられます。しかしながら、保管先が「さい帯血プライベートバンク」の場合、患者さんが個別に保存管理状況や経理状況まで調べることは事実上不可能であるので、もし不祥事や企業の破綻が発生した場合に、産婦人科医に道義的責任を求められることが危惧されます。
諸外国の状況を鑑みると、ACOGは2008年のNEWSの中で、「産科医は患者に対し個人向け臍帯血の保管がいつまで可能であるか定かではない旨を告知すべきである」としています。アメリカ血液骨髄移植学会では声明の中で、「新生児本人の使用を目的としての、個人向け臍帯血保管は原則として勧められない」としています。英国王立産婦人科学会ではガイドラインの中で、「あらかじめ分かっていない本人または家族の疾病の治療を目的としてプライベートバンクで臍帯血を保存することの有益性にはいまだ確信が持てない」とし、「各々の病院は、プライベートバンク利用目的で腰帯血を採取することについて方針(policy)を明らかにすべきである」としています。カナダ産婦人科学会は臨床ガイドラインで「新生児本人の将来的な疾病に備えて臍帯血を保存することは、治療適応が狭く科学的な根拠がないので勧めない」としています。
また、前出カナダの産婦人科ガイドラインでは、国に対し、臍帯血バンクの認可・登録・条件整備を要望し、「さい帯血プライベートバンク」に対しては、(1) 適正な価格設定と経理の透明性を確保すること、(2) 第三者への臍帯血輸血と本人への臍帯血輸血との違いを明示すること、(3) 公的臍帯血バンクの違いを両親に分かりやすいように明示すること、を求めています。米国では2005年に連邦法として国の臍帯血バンクの継続的財政支援が整備され、いくつかの州では臨床家に臍帯血の公的およびプライベートバンクの違いについて説明を求める法律が制定されています。
以上のことを鑑みて、産婦人科医会では国に対し以下の点につき要望しました。
〔産婦人科医会から国への要望事項〕
いわゆる「さい帯血プライベートバンク」に対する
臍帯血幹細胞は、従来の白血病をはじめとする血液疾患の治療目的のみならず、今後発展する再生医療のツールとして、大きく期待されています。その採取に産婦人科医が主体的に関ることから、日本産婦人科医会は会員と妊産婦を守る立場より、臍帯血バンクに高い水準を求めると同時にさらなる発展を願うものであります。
【参考文献】