(1)がん患者,がんサバイバーへの対応
ポイント
- QOLは身体的,精神的,社会的,文化的な側面からなる多次元的な概念である.
- 女性がんサバイバーはQOLや有害事象が悪化しやすい.
- 女性がんサバイバーは各世代で求められるサバイバーシップが異なる.
- 妊孕性温存(がん生殖),女性ホルモン欠落に対するホルモン補充療法,セクシャリティの問題は産婦人科の専門性が高い.
- 比較的若年で発症する婦人科がんにおいては特に妊孕性温存(がん生殖),女性ホルモン欠落に対するホルモン補充療法,セクシャリティが大きくかかわる.
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1)がん患者のQOLとがんサバイバーシップ
- QOLは世界保健機関(WHO:World Health Organization)において「単に疾病がないということではなく,身体的にも精神的にも社会的にも完全に満足のいく状態にあること」と定義される1).厚生労働省では「日常生活や社会生活のあり方を自らの意思で決定し,生活の目標や生活様式を選択できることであり,本人が身体的,精神的,社会的,文化的に満足できる豊かな生活」と定義している1).
- 米国国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)はがんサバイバーシップの定義を「がんと診断された時点から,生命の終わりまでを通しての人の経験全体を含む.がん患者本人だけでなく,その家族,友人,介護者なども“サバイバー”として含めることができる.」としている2).
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①女性がんサバイバーの特徴と役割
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①女性がんサバイバーの特徴
- 女性がんサバイバーは不安や抑うつの有病率が,同じがん種の男性の2~3倍高い3).
- 女性は男性よりも化学療法,分子標的薬,免疫療法などのがん治療においてグレード3以上の重篤な副作用が1.3倍多く,特に免疫療法では1.49倍,免疫療法における自覚できる副作用は1.66倍多い4).一方でがんの発症は男性に多く5,6),転移率や治療成績は女性よりも男性の方が悪い5,7).
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②各世代のがんサバイバーシップにおける産婦人科医の役割
- 年齢を問わないがんサバイバーシップとして,がんによるストレス,精神的負担,経済的負担などが含まれる(図9).
- がんサバイバーシップの中で,妊孕性温存(がん生殖),女性ホルモン欠落,セクシャリティは産婦人科の専門性が活かされる.
- アピアランス,家族,社会復帰などは男性とは異なる女性特有の課題がある.

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③小児・AYA世代のがんサバイバーシップにおける産婦人科医の役割
- 抗がん剤治療,放射線治療の副作用による妊孕性温存が問題となる(図9).治療が始まる前に卵子凍結,胚凍結,卵巣組織凍結などにより将来の妊娠の可能性を残す必要がある.『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』において,「がん治療医を含むヘルスケアプロバイダーは,がん治療によって生殖可能年齢内に不妊となる可能性およびそれに関する情報を,可能な限り早期に患者に伝える」「妊孕性温存に興味がある,あるいは医師を決められない場合,がん治療医を含むヘルスケアプロバイダーは可能な限り早期に生殖医療を専門とする医師を紹介する」と記載されている8).厚生労働省の『小児・AYA世代のがん患者等に対する妊孕性温存療法のエビデンス確立を目指した研究』のホームページでがん生殖を取り扱う医療機関を確認することができる9).
- 治療が長期間となることも多いことから,がん治療中のアピアランス,教育の課題がある(図9).
- がん治療後は二次がんと晩期合併症の問題がある.晩期合併症には,内分泌異常に伴う成長発達の異常(身長発育障害,無月経,不妊,肥満,るい痩,糖尿病など),中枢神経系の異常(白質脳症,てんかん,学習障害など),心機能異常,呼吸機能異常,免疫機能低下などがある.産婦人科医として第二次性徴を促すことを目的とした治療が必要である.小児ではエストラジオールを少量から開始することがあるが,成人期に必要な量まで増量する必要がある.
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④成人期のがんサバイバーシップにおける産婦人科医の役割
- がん診断時の課題として妊孕性温存がある(図9).小児・AYA世代と同様に治療が始まる前に卵子凍結,胚凍結,卵巣組織凍結などの適応を検討する.卵巣機能低下の予防として,GnRHアゴニストによる卵巣保護作用,放射線照射の範囲外へ卵巣を移動させる卵巣移動術や卵巣遮蔽が知られている.ただし,卵巣機能の予備能が低い場合は予防効果が乏しい場合がある.がん治療中の問題として,アピアランスの問題は大きい.リンパ節郭清によるリンパ浮腫,タキサン系をはじめとした抗がん剤の有害事象である脱毛,リボゾーム化ドキソルビシンや分子標的薬に伴う手足症候群,タキサン系に伴う爪囲炎,強皮症様皮膚硬化,放射線照射による放射線性皮膚炎,色素沈着などがある.がん治療後は,治療による卵巣機能低下によって,女性ホルモン分泌の低下に伴う動脈硬化症などの心血管疾患,骨粗鬆症,脂質異常症などのリスクがあるため,ホルモン補充療法の適応となる(図9).本邦における40歳から45歳の早期子宮体癌患者に対する治療後のホルモン療法は3割程度にとどまる10)
- 抗がん剤治療,ホルモン療法,放射線療法による骨塩減少をがん治療起因性骨塩減少(CTIBL:Cancer Treatment-Induced Bone Loss)と呼ぶ.医原性閉経による骨塩減少もあるため,年1回程度の骨密度測定などの検査を行う.
- プラチナ製剤による化学療法を行うと脈波伝播速度や血管拡張能が障害されるとの報告があり,心血管疾患への影響が懸念される11).子宮体癌は肥満患者が多く予後が良好のこともあり,最も多い死因は子宮体癌ではなく心血管疾患である12).子宮体癌では一般よりも診断後5年までに血栓が2.07倍,肺性心疾患が1.74倍,心房細動が1.50倍のリスクが高い12).手術後に化学療法や放射線照射を追加した患者においてリスクがより高い.以上から,血圧,心機能,脂質異常症などをモニターすることが望ましい.
- 下肢リンパ浮腫は長期経過するほど発症することが知られており,3カ月までに22.0%,12カ月までに34.0%,24カ月までに38.1%の患者がリンパ浮腫を自覚したとの報告がある13).
- そのほか,この世代においては経済的負担,社会復帰支援,セクシャリティ,家族支援の課題などもがんサバイバーシップに大きくかかわる(図9).
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⑤閉経期・老年期のがんサバイバーシップにおける産婦人科医の役割
- 高齢がん患者に対して,治療前に包括的高齢者評価(CGA:Comprehensive Geriatric Assessment)による評価を行うことがNCCNガイドラインにおいて推奨されている.高齢のがんサバイバーシップにおいては,治療による運動機能の低下が問題になる.ベッド上に1週間寝ているだけで筋力が10~15%低下するといわれており,ロコモティブシンドローム(Locomotive syndrome,略称:ロコモ)をスクリーニングすることで早期発見し,整形外科医やリハビリテーション医へのコンサルトが必要である(図9).ロコモのスクリーニングには日本整形外科学会推奨の「ロコモ度テスト」(立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25質問票)が用いられる.
- 老年期のがんサバイバーシップではフレイルの問題がある(図9).フレイルにより術後合併症の増加,治療完遂率の低下,副作用発生リスクの増大,退院時の介護必要度,死亡率などとの関連が指摘されている14-16).
- がん治療中は治療における経済的負担,本人のみならず家族への支援なども課題としてある(図9).
参考文献
- 1)吉川明,宮崎隆.重度・重複障害者におけるQOL評価法の検討.新潟青陵大学短期大学部,新潟青陵大学短期大学部研究報告.147-153,2008
- 2)Institution NC. survivorship (https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/survivorship?utm_source=chatgpt.com)
- 3)Linden W, et al. Anxiety and depression after cancer diagnosis: prevalence rates by cancer type, gender, and age. J Affect Disord. 141: 343-351, 2012
- 4)Unger JM, et al. Sex Differences in Risk of Severe Adverse Events in Patients Receiving Immunotherapy, Targeted Therapy, or Chemotherapy in Cancer Clinical Trials. J Clin Oncol. 40: 1474-1486, 2022
- 5)Haupt S, et al. Sex disparities matter in cancer development and therapy. Nat Rev Cancer. 21: 393-407, 2021
- 6)Rubin JB, et al. Sex differences in cancer mechanisms. Biol Sex Differ. 11: 17, 2020
- 7)Mervic L. Time course and pattern of metastasis of cutaneous melanoma differ between men and women. PLoS One. 7: e32955, 2012
- 8)日本癌治療学会編.小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン第2版.金原出版.2024年12月改訂
- 9)小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存療法のエビデンス確立を志向した研究.小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業(https://www.j-sfp.org/ninnyousei-outcome/index.html)
- 10)Inayama Y, et al. Real-world practice of estrogen therapy after surgery for endometrial cancer: a descriptive study using a Japanese claims database. Int J Clin Oncol. 28: 445-453, 2023
- 11)Sekijima T, et al. Impact of platinum-based chemotherapy on the progression of atherosclerosis. Climacteric. 14: 31-40, 2011
- 12)Ward KK, et al. Cardiovascular disease is the leading cause of death among endometrial cancer patients. Gynecol Oncol. 126: 176-179, 2012
- 13)Pigott A, et al. Incidence and risk factors for lower limb lymphedema associated with endometrial cancer: Results from a prospective, longitudinal cohort study. Gynecol Oncol. 158: 375-381, 2020
- 14)Hamaker ME, et al. The value of geriatric assessments in predicting treatment tolerance and all-cause mortality in older patients with cancer. Oncologist. 17: 1439-1449, 2012
- 15)Aaldriks AA, et al. Frailty and malnutrition predictive of mortality risk in older patients with advanced colorectal cancer receiving chemotherapy. J Geriatr Oncol. 4: 218-226, 2013
- 16)Ponzetti A, et al. Role of multidimensional assessment of frailty in predicting short-term outcomes in hospitalized cancer patients: results of a prospective cohort study. Tumori. 100: 91-96, 2014