10.妊娠悪阻に対する制吐剤の具体的な投与方法は?

ポイント

  • 軽症の場合は,少量頻回の食事(低脂質・高炭水化物)や生姜の摂取などで対応する.
  • 中等症の場合は,ビタミンB6や経口制吐薬の使用を検討する. ・重症の場合は,水分,ビタミンB1,ビタミンK,電解質補正のための輸液を行い, 注射制吐薬の使用も考慮する.

    制吐剤の具体的な投与方法を図2で示す.

(1)少量頻回食(低脂質・高炭水化物)

    少量ずつ摂取することで胃への刺激を最小限に抑え,頻回に摂ることで空腹時の胃酸分泌を抑制し,悪心の軽減につながるとされている.また,食物の胃内停滞を防ぎ,効率よくエネルギーを摂取するためには,低脂質・高炭水化物の食事が推奨される.重症例では,糖質投与に先立ちビタミンB1補充を行い,Wernicke脳症の発症を予防することが重要である.

(2)生姜

    生姜のスライスやすりおろした生姜を用いて,生姜湯,スープや味噌汁などに調理して飲用する.また,生姜パウダー,キャンディー,カプセルなどが加工品として市販されており,好みに応じて選択する.

(3)ピリドキシン(ビタミンB6)

    ピリドキシン10~25㎎を8時間ごとに経口投与する1).米国産婦人科学会(ACOG:American college of obstetricians and gynecologists)が推奨する第一選択薬となっている(適応症はビタミンB6欠乏症).

(4)メトクロプラミド

    1日10~30㎎を分割して経口投与し,注射剤として1回10㎎を1~2回/日,静脈内または筋肉に注射する(適応症は胃炎など).

(5)プロメタジン・ジフェンヒドラミン

    抗ヒスタミン薬である(適応症はアレルギー性鼻炎,蕁麻疹など).プロメタジンは,1回5~25㎎を1~3回/日,経口投与し,注射剤として5~25㎎を1~3回/日,皮下または筋肉内に注射する.ジフェンヒドラミンは,1回30~50㎎を2~3回/日,経口投与する.

(6)オランザピン・ミルタザピン

    向精神薬である(前者の適応症は統合失調症,双極性障害.後者の適応症はうつ病).オランザピンは1回2.5~5㎎を就寝前に経口投与,ミルタザピンは1回15㎎を就寝前に経口投与する.世界的には多数のcase report/seriesで効果と胎児への安全性が報告されている2)

(7)オンダンセトロン

    セロトニン5-HT3受容体拮抗薬である(適応症は悪性腫瘍に対する化学療法に伴う悪心・嘔吐の防止).注射剤として,1回4㎎を1日1回緩徐に静脈内に注射する.妊娠初期におけるオンダンセトロンの使用は,先天性心疾患を含む胎児奇形のリスク増加と関連する可能性が報告されている3).そのため,妊娠初期では慎重に使用し,他治療で効果不十分な場合に限って検討される.

(8)副腎皮質ステロイド

    副腎皮質ステロイドのなかでも,特にメチルプレドニゾロンは,中枢性制吐作用を有する薬剤として妊娠悪阻における制吐剤として効果がある4).ACOGが推奨する治療レジメンでは,メチルプレドニゾロン48㎎を1日1回,3日間にわたり経口または静脈内で投与する.3日以内に効果が認められない場合は,以降の治療の有効性が低いと考えられるため,中止が推奨されている5).一方,効果が得られた症例では,2週間かけて漸減しながら投与を継続する.嘔吐が再発する場合には,漸減を中止し,有効量を維持したまま最長で6週間まで継続投与することが可能とされている5).他治療に抵抗性の重症例に限って使用を検討する.

妊娠悪阻に対する薬物療法のフローチャート

参考文献

  • 1)Vutyavanich T, et al. Pyridoxine for nausea and vomiting of pregnancy: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Am J Obstet Gynecol. 173: 881-884, 1995
  • 2)Galleta MAK, et al. Use of Mirtazapine and Olanzapine in the Treatment of Refractory Hyperemesis Gravidarum: A Case Report and Systematic Review. Case Rep Obstet Gynecol. 7324627, 2022
  • 3)Elkins JR, et al. Hyperemesis Gravidarum and Nutritional Support. Am J Gastroenterol. 117: 2-9, 2022
  • 4)Safari HR, et al. The efficacy of methylprednisolone in the treatment of hyperemesis gravidarum: a randomized, double-blind, controlled study. Am J Obstet Gynecol. 179: 921-924, 1998
  • 5)Committee on Obstetric Practice. ACOG Practice Bulletin No.189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 131: e15-e30, 2018