22 .子癇の治療・予防のために開始した硫酸マグネシウムはいつまで継続すべきか?
ポイント
- 分娩後24時間までの継続投与が標準である.
- 腎機能低下を伴う場合は,血中Mg濃度を適宜測定する.
- 血中Mg濃度が4㎎/dL前後の比較的低値でも,予防効果が期待される.
(1)分娩後24時間の背景
硫酸マグネシウム(MgSO4)は,子癇の治療および予防において最も信頼されている薬剤である.その有効性は,子癇を発症した妊婦を対象としたCollaborative Eclampsia Trial(1995)1),および妊娠高血圧腎症(PE:Preeclampsia)患者を対象としたMagpie Trial(2002)2)によって確立された.いずれの大規模臨床試験でも,分娩後24時間までの継続投与が行われており,現在もこの管理法が国際的な標準となっている.
(2)早期中止の妥当性
近年,母体の副作用軽減や早期の離床・授乳促進を目的として,分娩前に一定時間MgSO4を投与された症例における産後早期中止の安全性が検討されている.システマティックレビュー&メタ解析では,子癇発症率に有意差を認めないが,早期中止群(0.5%)は標準管理群(0.2%)よりもやや高率である3).しかも,より多くの症例数があれば,早期中止により子癇リスクが有意に増加する可能性があることも示唆されている.したがって,現時点では分娩後24時間の投与継続が推奨される.
(3)実践
MgSO4は軽度の降圧作用を有するが,分娩後はカルシウム拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬エナラプリル(レニベース®)などを併用し,正常血圧までの十分な降圧を目指す.マグネシウム(Mg)は腎排泄性であり,腎機能障害のある患者では血中Mg濃度を測定し,過量投与を回避する.また,血中Mg濃度が4㎎/dL前後の比較的低い濃度でも子癇の予防効果が期待できる可能性が報告されており4),必ずしも高濃度を維持する必要はない.重症所見(表4)を伴う妊娠高血圧腎症は子癇の発症リスクが高いため,MgSO4による予防的管理が強く推奨される4, 5).
(4)子癇の治療・予防に硫酸マグネシウムは有用か?
硫酸マグネシウムの子癇に対する有効性は,子癇を発症した妊婦を対象としたCollaborative Eclampsia Trial(1995)によって確立された.同試験では,硫酸マグネシウムがジアゼパムやフェニトインよりも痙攣再発率および母体死亡率を有意に低下させ,治療開始後24時間の継続投与が推奨される根拠となった.これと対をなす形で,妊娠高血圧腎症(PE:Preeclampsia)患者を対象としたMagpie Trial(2002)では,発作予防においても硫酸マグネシウムが有効であり,予防目的でも分娩後24時間の投与が標準化された.これらの国際共同無作為化比較試験は産科診療におけるEBM(根拠に基づいた医療)の成功例であり,その結果は,硫酸マグネシウムが「治療」と「予防」の両面において最も確かな選択肢であることを裏づけている.
(5)分娩前に硫酸マグネシウムを少なくとも8時間使用した場合,産後早期の中止は妥当か?
9件のRCT(合計2,183名を対象)を用いたシステマティックレビュー&メタ解析では,子癇発症率は,早期中止群(多くは分娩前に硫酸マグネシウムを8時間投与)と24時間投与群とでは有意差を認めず,歩行再開や授乳開始が早いことが報告された.しかし,本研究は,症例数の不足による統計的パワー不足が懸念される.また,子癇発症率は有意ではないが発症率がやや高い事実は無視できない(早期中止群0.4% vs 継続群0.2%).したがって,現時点では標準治療である「産後24時間の継続投与」を改訂するには至らない.
(6)硫酸マグネシウムによる子癇予防投与の対象は?
国際妊娠高血圧学会(ISSHP:International Society for the Study of Hypertension in Pregnancy)および米国産科婦人科学会(ACOG:American College of Obstetricians and Gynecologists)は,重症所見(表4)を伴うPEに対し,子癇予防を目的に硫酸マグネシウム投与を推奨している.硫酸マグネシウムには降圧作用を有するため,妊娠中に降圧薬を併用する場合は,胎児への影響を考慮して過度な降圧にならないよう降圧薬の調整を行う.産後はカルシウム拮抗薬を継続するか,乳汁を介した降圧薬の影響を考慮し,アンジオテンシン変換酵素(ACE:Angiotensin-converting enzyme)阻害薬エナラプリル(レニベース®)を用い,正常血圧までの十分な降圧を目指してよい.目標Mg濃度は,従来の治療域(4.8~8.4㎎/dL)よりも低い濃度で子癇予防効果があることを示す報告もあり,Mg4㎎/dL前後の目標濃度設定が許容される可能性がある.
文献
- 1)The Collaborative Eclampsia Trial Group. Which anticonvulsant for women with eclampsia? Evidence from the Collaborative Eclampsia Trial. Lancet. 345: 1455-1463, 1995
- 2)Magpie Trial Collaboration Group. Do women with pre-eclampsia, and their babies, benefit from magnesium sulphate? The Magpie Trial: a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 359: 1877-1890, 2002
- 3)Quist-Nelson J, et al. Early magnesium discontinuation postpartum and eclampsia risk: A systematic review and meta-analysis. Pregnancy Hypertens. 37: 101141, 2024 doi: 10.1016/j.preghy.2024.101141
- 4)American College of Obstetricians and Gynecologists. Gestational Hypertension and Preeclampsia: ACOG Practice Bulletin, Number 222. Obstet Gynecol. 135: e237-e260, 2020
- 5)Brown MA, et al. The hypertensive disorders of pregnancy: ISSHP classification, diagnosis & management recommendations for international practice. Pregnancy Hypertens. 13: 291-310, 2018