24 .分娩中に輸液を行う際に適切な輸液の種類や流速は?

ポイント

  • 分娩時のルーチンな輸液が分娩予後を改善する明確なエビデンスはない.
  • 無痛分娩中や摂食・飲水の困難時(疲労,遷延分娩など),脱水症状を認める場合には,脱水・血圧低下の予防または治療(水分と電解質の補給)や,エネルギー補給などを目的に輸液を行う.
  • 脱水・血圧低下の予防または治療では細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,生理食塩水など)を使用し,エネルギー補給や高張性脱水ではブドウ糖液を使用する.
  • 緊急帝王切開時には,麻酔導入前の乳酸リンゲル液の急速投与は母体低血圧のリスクを低減し,結果として胎児酸素化の改善に寄与する可能性がある.
  • 大量出血やショック状態では血管収縮により静脈路確保が困難となる場合があるため,事前の静脈路確保により迅速な緊急時対応が可能となる.

    分娩中の輸液は母体の循環動態を安定させ,子宮・胎盤血流を維持することで胎児の酸素供給を保つことを目的に行われることが多い.しかしながら,ルーチンな輸液投与を支持するエビデンスはない.むしろ臨床的に問題となり得る有害事象として過剰な輸液は母体の肺水腫や低ナトリウム血症のリスクを高めるため,近年では「必要な症例に必要最小限」の輸液を行うことが推奨されている1)
    輸液が必要となるのは帝王切開術とのダブルセットアップの場合や無痛分娩中など,摂食,飲水が制限されている,もしくは困難な場合や,脱水症状や遷延分娩による母体疲労を認める場合などである.この場合の輸液の選択は目的に合わせて行い,脱水,血圧低下の場合には細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,生理食塩水など)を使用し,エネルギー補充や高張性脱水ではブドウ糖液を使用する.投与速度は母体および胎児の状態に応じて調節し,母体の摂食状況,発汗,バイタルサイン,胎児心拍モニターの所見などを総合的に評価して漫然な投与を避けるよう調節を行う.
    緊急帝王切開術が必要となる場合には,麻酔導入前に乳酸リンゲル液を急速に投与することで麻酔に伴う母体低血圧の発生のリスクを低減できることが示されており,その結果として胎児の酸素化の改善に寄与する可能性があり,特に無痛分娩中や母体の脱水が疑われる際に有効であるとされる2)
    また大量出血やショックの状態では末梢血管の収縮により静脈路の確保が困難となる場合がある.そのため,分娩進行中にあらかじめ静脈路を確保しておくことは,緊急時対応を迅速に行う上で有用である.
    分娩進行中のルーチンな輸液投与に関するエビデンスはないが,母体の全身状態,分娩経過,合併症の有無など,各症例に合わせた必要最小限の輸液管理を行うことで安全な分娩管理と母児の予後改善につながると考えられる.

参考文献

  • 1)First and Second Stage Labor Management: ACOG Clinical Practice Guideline No. 8. Obstet Gynecol. 143: 144-162, 2024 doi: 10.1097/AOG.0000000000005447 PMID: 38096556
  • 2)Rijs K, et al. Fluid loading therapy to prevent spinal hypotension in women undergoing elective caesarean section: Network meta-analysis, trial sequential analysis and meta-regression. Eur J Anaesthesiol. 37: 1126-1142, 2020 doi: 10.1097/EJA.0000000000001371 PMID: 33109924, PMCID: PMC7752245