6.推奨される体重増加量が増えたが,なかなか妊婦の体重が増えない.どのように対応したらいいか?
ポイント
- 適正な体重増加は母児にとって不可欠であり,分娩転帰の改善にも寄与する可能性がある点を説明する.
- 妊娠週数や体調に応じて,過度なエネルギー消費を目的とした運動ではなく,筋力維持と代謝機能の改善を目的とした運動の指導を行う.
- 悪阻などの胃腸症状に対して,食品の種類・摂取タイミングなどを工夫し,メトクロプラミド以外の薬剤も検討する.
- 医師・栄養士・助産師などの多職種連携によって,個別性を重視した栄養・運動・心理支援の計画を立てる.
低出生体重児の増加を抑制するため,妊娠中の体重増加の推奨値が引き上げられた1).しかし,依然として十分な体重増加が得られない妊婦は少なくない.その背景には,悪阻によって十分な食事が摂取できないことや,妊娠中の体重増加の重要性に関する情報不足がある.特に,やせ型の妊婦では,もともと食が細いことに加え,体重増加に対する心理的な抵抗感があることから,適切な体重増加に難渋することが多々ある.このような妊婦に対してどのようなアプローチが可能かについて,以下の4つのポイントに分けて示す.
(1)妊娠初期からの正しい情報提供
- 妊娠初期から適切に体重を増加させる必要性を妊婦に理解してもらうことが重要である.妊娠前の体格に応じて,どの程度の体重増加が望ましいのかを具体的に説明する.
- 「体重増加=太ること」と誤解されがちだが,体重増加は胎児の成長および母体の生理的変化にとって必要不可欠であることを伝えることが重要である.
- 「体重が増えすぎるとお産が大変になる」と心配する妊婦も多いため,適正な体重増加の範囲内であれば,そのようなリスクはむしろ低いことも併せて説明する.
(2)運動・筋力維持の視点の導入
- 体重が推奨量まで増加しない背景には,筋肉量の低下が潜在している可能性がある.
- 妊娠中は,胎児・胎盤・羊水の重量や血液量の増加により,本来であれば自然に体重が増加する.しかし,それがみられない場合,筋肉の分解が進み基礎代謝がかえって低くなることで,産後の体重過多や回復の遅延といったリスクが高まる.
- 体重増加が不十分な妊婦に運動を勧めることに躊躇があるかもしれないが,実際には筋力トレーニングや有酸素運動によりエネルギー代謝の効率が改善され,食欲が促進されることで体重増加に寄与し,さらに低出生体重児の予防にもつながるとの報告もある2).
- 妊娠週数や体調に応じて,妊婦体操,スクワット,水中運動などの運動を適切に指導することが重要である.
(3)悪阻・胃腸症状がある場合の対応
- 食べられるタイミングと食材を見つけることが重要である.
- 少量を頻回に分けて摂取し,冷たくて匂いの少ない食品,飲み物に頼る栄養補給など,柔軟に対応する.
- 薬剤による症状軽減も検討する.代表的なメトクロプラミドに加え,ドキシラミン・ピリドキシンはACOG(American college of obstetricians and gynecologists)が推奨する第一選択薬となっている(前者は未承認.後者の適応症はビタミンB6欠乏症).
- またオランザピンやミルタザピンも催奇形性を示さずに効果を示す症例報告が増えてきている3)(前者の適応症は統合失調症,双極性障害,抗悪性腫瘍剤による消化器症状.後者の適応症はうつ病).
(4)多職種連携
- 妊婦健診の際に,医師が栄養士や助産師とも連携して栄養指導を行う.
- 妊娠中の栄養指導によって,妊婦の体重増加量,出生体重,早産,母体貧血などのアウトカムを改善させることが知られている4).
- 食事記録を行うことによりカロリーや栄養素の不足がないか評価し,不足している場合は無理のない範囲で間食やエネルギー密度の高い食品の活用を提案する.
- 特にBMI18.5未満は「低栄養」の診断となり,管理栄養士による個別栄養指導を実施すれば外来栄養食事指導料の加算対象となる.
- 単にもっと食べるようにと指導するのではなく,妊婦一人ひとりの体格,生活環境,心理的要因,症状に応じて個別性を重視した栄養・運動・心理支援の計画を立てることが求められる.正しい知識の共有,継続的な支援,多職種連携が鍵となる.
文献
- 1)Takeda J, et al. Investigation of optimal weight gain during pregnancy: A retrospective analysis of the Japanese perinatal registry database. J Obstet Gynaecol Res. 50(3): 403-423, 2024
- 2)Diaz-Goni V, et al. Comparative effect of different types of physical exercise and intensity levels on low birth weight: A systematic review and network meta-analysis. Womens Health(Lond). 20: 1-11, 2024
- 3)Galleta MAK, et al. Use of Mirtazapine and Olanzapine in the Treatment of Refractory Hyperemesis Gravidarum: A Case Report and Systematic Review. Case Rep Obstet Gynecol. 7324627, 2022
- 4)Girard AW, Olude O. Nutrition education and counselling provided during pregnancy: effects on maternal, neonatal and child health outcomes. Paediatr Perinat Epidemiol. 26 Suppl 1: 191-204, 2012