(1)パートナーからの暴力(DV)
ポイント
- DVにより予期せぬ妊娠・中絶,流早産,低出生体重,自殺が増加する.
- 面前DVは子どもの脳発達に重大な影響を与え,死亡リスクを上昇させる.
- 緊急避妊,予期せぬ妊娠,中絶,性感染症での受診時は,DVの潜在に留意する.
- DVが判明したら,配偶者暴力相談支援センター(♯8008)の情報を提供する.
-
1)DVとその影響
- DVは配偶者など親密な関係にあるパートナーが,さまざまな暴力(表6)により怖がらせ,支配・コントロールするものである.
- 被害者もDVと認識していないことが多く,支配が長期間に及ぶことで心身の不調を来す(表7).


- DVがあると,予期せぬ妊娠,中絶,性感染症のリスクが高まる.またDVに起因する睡眠障害,摂食障害,PTSD,うつ病などの発症により,流早産,低出生体重および自殺のリスクが上昇する(図5).

- 子どもがDVを目撃すること(面前DV)は心理的虐待であり,約3割に子どもへの身体的虐待が併存する.面前DVは子どもの脳発達に影響を及ぼし,生きづらさに起因する非社会的行動,反社会的行動,自傷・自殺などにより子どもの死亡リスクを高める(表7).
-
2)DVを疑った場合の介入
- 医療機関は,緊急避妊,予期せぬ妊娠,中絶,性感染などで受診した際に,DVに気付きやすい立場にある.表7に示す状況での反復受診や子どもの状況などを総合的に判断し,DVが背景にある可能性を念頭に置き対応する.
- 被害者は支配によるマインドコントロールで自己肯定感・自己効力感を喪失しており,DVを認めることや逃げる選択をすることも容易でない.二次被害を与えないように注意し,自己肯定感を取り戻す第一歩として「あなたは悪くない」という言葉とともに,敬意と労いの態度をもって接する.
- 経済的理由などにより,逃げない選択をする場合が多いが,子どもへの影響は重大であることを伝え,DVから逃れる選択肢を提示する.ストーキングなどからの安全確保のため,専門機関(配偶者暴力相談支援センター,全国共通ダイヤル♯8008)への相談が望ましく,その情報を提供する.
- DVの性的暴力で妊娠し,出産を希望しない場合には,警察への被害届提出の有無にかかわらず,母体保護法14条1項2号による中絶が可能である.既婚者であっても,DVがあれば中絶に配偶者同意は不要である.その場合,カルテにDVによる妊娠であることを記載する必要がある.
-
3)DV防止としてのプレコンセプションケア
- 本邦では女性の27.5%が配偶者からのDV被害を経験している.ほとんどが交際中から支配とコントロールを受けており,表6に示す性的暴力によって妊娠・出産すると,暴力はエスカレートし,逃げることが困難になる.したがって,プレコンセプションケアとして妊娠前に暴力に気付くことが何より重要である(図6).
- 包括的性教育として,学校でジェンダー,支配とコントロール,暴力を避ける方法,逃げるためのスキルの習得を目指すとともに,プレコンセプションケアとして若い世代にさまざまな機会・媒体を通じてDVに気付くための情報を届ける予防啓発が求められる.

コラム
DV(Domestic Violence)とIPV(Intimate Partner Violence)について DV(Domestic Violence)は本来「家庭内暴力」を指す概念であり,配偶者・恋人間のみならず親子間や高齢者虐待(abuse)なども含む広い範囲を対象とする.一方,WHOなど国際機関や学術・研究分野では,暴力の本質が「親密な関係性における支配」にあることを明確に示すIPV(Intimate Partner Violence)という用語を用いる.IPVは家庭内に限定せず同棲・交際中など親密な関係にあるパートナーからの身体的・性的・心理的暴力も対象とし,児童虐待等は含まない.プレコンセプションケアにおいて,WHOはIPVを用い,妊娠前からの母体・胎児への健康影響の予防を重視している.