(1)不育・不妊
(1)不育・不妊
ポイント
- 女性のみならず男性の年齢もカップルの妊娠率・流産率に影響を与える.
- 卵巣予備能を評価する方法としてAMH値が有用である.
- 卵子および受精卵の質評価としてPGT-Aが試みられている.
1)はじめに
女性の年齢が男女カップルの出産成功率に重要であることは古くから経験されてきた.加えて男性の年齢が流産率に影響を与えることが指摘されており,最も重要な要素は男女ともに年齢であることが明らかになりつつある.プレコンセプションケアの主眼は男女の健康管理,併存症の適切な管理に加えて,妊娠を望んでいる男女が,適切な時期に妊娠を試みることを可能とする心理的・社会的・経済的環境を整えることも重要な課題となっている.
2)女性の年齢と妊娠成功率(体外受精の成績から)
体外受精が臨床応用された1980年代から現在に至るまで日本産科婦人科学会は,生殖補助医療(体外受精とそれに関連する不妊治療の総称)による妊娠成功率,出産例の詳細な登録を全国の生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)実施施設から求め,集計,公開1-3)している.2025年現在,日本全国における自然妊娠を含む国内出産例の10%以上がART妊娠となっている.ARTデータをもって自然妊娠を含むすべての妊娠成功率を議論することは難しいが,ART妊娠は全例登録されており,男女の年齢など多くの客観的データが含まれるため,妊娠成功率を考える良い資料と考えられる.
日本産科婦人科学会の最新報告1)によると全国6,610の医療機関で2023年1年間に合計561,664周期の治療が行われ,85,048人の児が出生している.女性の年齢別にみた成功率・流産率を図10に示す.子宮に受精卵(胚)を移植した時点で妊娠が成立する率(胚移植あたりの妊娠率)は,30歳前後では50%を越えているが35歳以上になると顕著な低下を示し,43歳以上で20%を下回る状況となる.加えて妊娠が成立しても流産に終わる確率(流産率)は30歳前後では20%を下回るが,42歳を超えると40%を超える値となる.したがって,ART治療あたりの出産成功(生児獲得)の見込みは30歳で23%程度,42歳で5.6%,43歳で5%を下回ることとなる.

3)女性の年齢と胚異数性
女性の年齢が高くなると,移植あたりの妊娠率が低下し,妊娠あたりの流産率が上昇する理由は,経験的に「卵子の質低下」と説明される.流産した子宮内容物(絨毛など胚由来組織)から染色体異数性を検出することが多いことが以前から報告されてきた4).近年,移植する直前の胚の一部(胎児にならない部分)を生検し,その細胞に含まれる各染色体の本数を解析する着床前胚染色体異数性検査(PGT-A:Preimplantation Genetic Test for Aneuploidy)が試みられるようになり,胚が由来する女性の年齢と胚異数性の関連性が多数示されている5,6).
女性の年齢が上昇するにしたがい胚染色体異数性検出率が増加し(図11),PGT-Aにより正倍数性(正常核型)と考えられる胚を移植した場合は,通常のARTで経験される年齢による妊娠率低下や流産率低下が認められない(図12,13)ことから,年齢に伴う妊娠率低下や流産率上昇は胚(ほとんどの場合,卵子由来)の染色体異数性が主因と理解されつつある.



4)女性の年齢と卵子数(卵巣予備能)
ART治療周期で,得ることができる最大卵子数(卵巣予備能)を事前に検討する手段として血清AMH(anti Mullerian Hormone)値が有用である.AMH値は女性の年齢とともに有意に減少することが示されている7).年齢別にみたAMHの平均値は,25歳では約4.1ng/mL,30歳では約3.7ng/mL,35歳では約2.1ng/mL,40歳では約1.1ng/mLと減少する.
5)男性の年齢が妊娠・流産に及ぼす可能性
従来,男性の年齢は妊娠出産成功率に影響を及ばさないとされてきたが,近年,男性の年齢と妊娠出産成功率に緩やかな関係を示す研究もある8).流産率に注目したメタ解析(図14)によると,男性の年齢が45歳を超える場合には有意に流産率が上昇することが報告されている.

6)おわりに
妊娠希望しても叶わない,流産を繰り返す比較的高齢の男女カップルが増えている現状を考えると,比較的若年期に妊娠出産を試みることの重要性が再認識される.個人の健康管理はもとより,社会全体としてのプレコンセプションケアに対する取り組みにも対応が求められる時代と思われる.
参考文献
- 1)日本産科婦人科学会.2023年ARTデータブック(https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf)(最終アクセス日 2025年9月23日)
- 2)Irahara M, et al. Assisted reproductive technology in Japan: Summary report of 1992-2014 by the Ethics Committee, Japan Society of Obstetrics and Gynecology. Reprod Med Biol. 16: 126-132, 2017
- 3)Katagiri Y, et al. Assisted reproductive technology in Japan: A summary report for 2021 by the ethics Committee of the Japan Society of obstetrics and gynecology. Reprod Med Biol. 23: e12552, 2023
- 4)Ogasawara M, et al. Embryonic karyotype of abortuses in relation to the number of previous miscarriages. Fertil Steril. 73: 300-304, 2000
- 5)Franasiak JM, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril. 101: 656-663, 2014
- 6)Iwasa T, et al. Preimplantation genetic testing for aneuploidy and chromosomal structural rearrangement: A summary of a nationwide study by the Japan Society of Obstetrics and Gynecology. Reprod Med Biol. 2023; in press(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37274391/)
- 7)Seifer DB, et al. Age-specific serum anti-Müllerian hormone values for 17,120 women presenting to fertility centers within the United States. Fertil Steril. 95: 747-750, 2011
- 8)du Fossé NA, et al. Advanced paternal age is associated with an increased risk of spontaneous miscarriage: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 26: 650-669, 2020(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32358607/)