(1)妊娠前と妊娠中における体重管理
ポイント
- 妊婦の初診時,記憶による妊娠前の体重をもとにBMI値を計算し,体格を評価する.
- 妊娠前の体格区分ごとに,妊娠中の体重増加量の目安が設定されている.
- 妊娠中の増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分でないと認識し,個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける.
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1)わが国における出生体重の低下をめぐる諸問題
- 英国やフィンランドにおける低出生体重児の出生コホート研究による児の成長後の生活習慣病の罹患率上昇に関する疫学研究などを契機として,2000年前後よりDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)という比較的新しい概念が注目され始めた.
- DOHaDは胎芽期,胎生期,乳幼児期における栄養などの環境因子が,成人期や老年期の健康や生活習慣病に罹患するリスクにかかわるという学説である1).
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2)妊孕世代女性のやせ指向
- わが国では,1980年頃より低出生体重児の割合が増加し始め,約9.4%で高止まりしている(図1上段参照,参考文献1より転載).
- 図1最上段で示すように,同指針が公表された1999年の時点でわが国における低出生体重児の比率は約8%まで上昇していた2).したがって,わが国における低出生体重児の比率の上昇には,妊娠中の摂取エネルギーの不足のみならず,図1中段に示すような妊孕世代女性のやせ比率の増加や平均BMIの低下など,妊娠前に既にエネルギー摂取不足の食生活を送っていることが少なからず低出生体重児の比率の低下に影響を及ぼしている可能性が危惧される.
- 日本産科婦人科学会では,1997年に策定され1999年に公表された妊娠中毒症の予防を目指した体重増加指針(図1下段)は,妊婦の生理的な体重の増加量を下回っている可能性が危惧されることから,2019年に日本産科婦人科学会の周産期委員会では1999年の指針の歴史的役割は終了したと判断してその取り下げを決定した2).

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3)2021年妊娠中の体重増加の目安の策定
- このような背景から,日本産科婦人科学会の周産期委員会の「これまでの基準や用語を見直す小委員会(板倉敦夫小委員長)」において新たな指針が策定された(図2).例えば,妊娠前BMI 18.5~25kg/m²である妊婦に対して妊娠による体重増加の推奨値は10~13kgとなり大幅に増加した(図1,2).記憶による妊娠前体重をもとにBMI値を計算し体格を評価する.妊婦の体格区分により体重増加の目安が推奨されている.
- 妊娠中の増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分でないと認識し,個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける.ただし,DOHaD学説で指摘された成長後の長期的な健康予後は考慮されていない.本目安の公開と軌を一にして,厚生労働省の「妊婦のための食生活指針」が改訂され本目安が採用された2).

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4)日本的栄養観が海外在住日系人に及ぼす影響
- 興味深いことに,森崎らは米国在住の日系人における平均出生体重は3,096gであり,調査した米国在住の17人種の中で最も低かったこと,妊娠前BMI値は低く,妊娠中の体重増加量は少なかったことを報告している3).この報告から,妊孕世代女性の栄養摂取不足の傾向が,日本国内のみならず海外在住の日系人社会へも何らかの情報媒体を介して伝播している可能性が想定される.
- 栄養,生活文化や健康の価値観について日本から海外在住の日系人へ向けた情報発信の影響を改善する何らかの施策の必要性が示唆される.
文献
- 1)Itoh H, et al. Editorial: A Half-century history of nutritional guidance for pregnant women in Japan: A promising research target of the DOHaD study. Front Endocrinol (Lausanne). 13:942256, 2022
- 2)板倉敦夫,他.妊娠中の体重増加指導の目安 周産期委員会 これまでの基準や用語を見直す小委員会.日本産科婦人科学会雑誌.73(6):678-679,2021
- 3)Morisaki N, et al. Social and anthropometric factors explaining racial/ethnical differences in birth weight in the United States. Sci Rep. 7:46657, 2017